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後妻打ち
「頼も~!」
私は、岸谷屋の母屋入口に立ち、ゆき江様の朋輩として、新しい若奥様に対して果たし状を読み上げてた。
何事かと、声を聞きつけた奉公人達、奥様、旦那様までが私を見ている。
足がぶるぶると震えたけれど、私の出で立ちを見て、全てを理解してくれた女中頭のおきみさんが、握った手を体の前で小さく上下しながら、励ましてくれてた。それを頼りに、一つ咳払いをして、出来る限りの大きな声で
「某月某日参ります。おてつ様においては、後妻打ち、御覚悟されませ」
そう読み上げた。
懐手で聞いていたおてつさんは、馬鹿にしたように鼻で笑うと、機嫌の悪い顔で
「けっ、何をほざきやがる、追い出された分際で。後妻打ちなんざいつの時代の話だよ、ああいいさ、いつでも来やがれ、おてつ姐さんを舐めるんじゃないよ」
芸者の時の朋輩を集めると息巻いた。
大役が終わった私は少しふらついたが、一礼をして踵を返した。
さあ、岸谷屋では、それからが大変だったらしいけど、私は近くでお待ち頂いていた正一郎様と二人、振り返ることなく、ひたすら湯島へと足動かした。
ゆき江様は、背中に誠一郎様を背負い、お家の外にまで出て待っていてくださった。
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