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その日のゆき江様は、武家の方の様に、寸分の隙も無いほどにキリッと着つけられ、白い鉢巻きを巻いて、手には箒を持ち、入口に立たれた。
前日から季節外れの大雪になってしまって、しかも、数日前からまた少し、お熱も出ていたので、
「どうか、おやめください」
ってお願いしたのに、
「大丈夫、大丈夫ですよ」
って優しく微笑み返されて、お仕度を始められた。
一緒に止めて欲しくて振り向いたのに、庄之助様は私の手から坊ちゃんを抱きとられ、
「姉の支度を手伝ってやってください」
ってゆき江様に加勢された。
あちらでは、元芸者衆の朋輩が幾人も待機していると聞いた。
そこへ、ゆき江様はお一人で乗り込まれるおつもりだった。
私は無理にお願いして何とかお供に加えていただいた。
「頼も~」私が叫び、ゆき江様が入口に立たれると、待ってましたとばかりに、おてつさんが現れた。
「おや、たった二人かい?病弱だって話なのに、大丈夫かい?」
馬鹿にしたように煽るおてつさんを無視したように、
「参ります」
言うが早いか、ゆき江様はずかずかと上がられた。
その凛とした様の美しかった事。誇らしくさえあった。
私がへっぴり腰で構えても、箒は箒にしか見えないけれど、ゆき江様が構えられると箒が薙刀に見えてくる不思議。
それにしても、おてつさんのお仲間は、まるでゆき江様の行く手を阻まない。
訝しく見ると、年嵩の一人が他の朋輩に手を出さないように目配せをしていた。
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