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その後
陽気もよくなり、桜が咲くと、お花見に行こうと話が持ち上がった。
ゆき江様が行きたい所があるのと仰って、四人で向かったのは、昔、ご姉弟が木登りをしたという神社だった。
誠一郎様と手を繋がれ、一段一段ゆっくりと登られる様子は、とても楽しそうで、こちらまで嬉しくなる。
登り切った石段の一番上から見下ろした景色の清々しかった事。
「ほら、誠一郎さん、ご覧なさい、なんて美しいのでしょう」
そう言ってゆき江様は飛び切りの笑顔で誠一郎様を抱き上げられた。
小さな手をパチパチと打ってはしゃぐ誠一郎様を、そうね、綺麗ねと、それはそれは大切な宝物のように抱きしめられたのを今でも覚えている。
この日が四人で出かけた最後となった。
それから亡くなるまでのひと時を、誠一郎様と大切に過ごされ、いつものように優しい微笑みを遺して逝かれてしまった。
庄之助様は禄をお返しになると決められていたようで、田舎に引っ込むよと言われ、私は誠一郎様をお守りするために岸谷屋に戻る事になった。
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