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正一郎様の処分を決める外戚、分家一族揃っての会合が行われた。
本家の立場を利用して分家にかなりの額の遊興費をたかっていた事等が明るみに出た正一郎様は、最も重い廃嫡となったという事だった。
重くても隠居であろうとたかをくくり、それはそれで尚一層遊べる程度に考えていた正一郎様は、その決定に不服を申し立てられたが、誰も味方がいなかった。
実の父母にさえ見放された事を知り、初めて取り返しがつかないと悟られた正一郎様は、失意のうちに長老の世話で、長老の生国である阿波の寺に入られたと聞いた。
おてつさんはというと、分が悪いとみると、さっさと出て行ったそうで、その後の消息は知れない。
庄之助様が、諸々手続きが終わりましたとご挨拶に来られた時、私も座敷に呼ばれた。
「庄之助様と二人で誠一郎を守ってやってくれないだろうか」
その席で旦那様から受けた突拍子もない申し出に、はじめは尻込みしたけれど、考えに考えて、庄之助様ともご相談してお受けする事にした。
私はゆき江様から一文字頂きはる江となり、数年後に二代目の後を継がれた庄之助様は、三代目安兵衛と改められた。
事情を知らない人の目から見れば夫婦で岸谷屋を乗っ取ったようにも見えるはず。店を続けるためには、それなりに嫌な目にあって来たし、泥水を被り、飲みもしたけれど、誠一郎の為、ゆき江様の為と思えば何ともなかった。
そして何より、目を閉じてあの日見た美しい景色を胸に思い浮かべれば、浄化されていく気がした。
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