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春まだ浅い頃、誠一郎は、四代目安兵衛を継ぎ、およしは、はる江から一文字貰い、よし江と名を改めた。
新しい岸谷屋の舟が次の港目指し、この江戸の町を、ゆっくりと漕ぎだしたのを見届け、庄之助とはる江は岸谷屋を後にした。
石段を登りきった場所から町を見下ろす。
まだ少し冷たさを残しながらも春の匂いをさせ風が吹く。
瓦が日を受けてキラキラと輝き、
空は何処までも青く、高く、高く、広がっていた。
『ほら、向こうまで何にも遮るものなくて、ずーっと見渡せるのよ』
『ほら、ご覧なさい、なんて美しいのでしょう』
澄んだ声が聞こえた気がした。
ー終ー
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