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片桐家から縁談が来たと聞いた時はちせは耳を疑った。
それは両親が騒いでいる家格の違いよりも何よりも、お相手がずっと、
ちせが胸を焦がしていた相手だったからである。話したことは勿論ない。
整った顔立ち、すらりとした姿を目当てに騒ぐ娘たちもいたが、
ちせが一番最初に好ましく思ったのは顔でも背丈でもなく足元だった。
誰もが踏みつけていく道端に咲く花を新之助はそっと避けて歩いていた。
今では、新之助が老若男女問わず、果ては犬猫草花にさえ優しいのを知っていった。
新之助は物静かだった。対して自分が落ち着きがないのも情けないが、妻として、伴侶としてどう思われているのか不安だった。
誰でも良かったのかもしれないし、誰も要らないのかもしれないし、ほかに誰か好いたお方がいらしたのかもしれない。
ちせはちせでそんな不安を抱えていた。
必要とされている、そう実感出来たあの日ちせは深く安堵した。
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