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仕事場に、また新たに交代があった。
新しく入ってきたのは新之助を最もかわいがってくれた関谷の跡取りの八之助だった。八之助はがっしりとした男で華奢な関谷とは体つきこそ似ていないが父に似て快活であった。
しかし、仕事での八之助のつかえなさっぷりはいっそ清々しいほどだった。
それでも新之助は辛抱強く教えた。そのかいあって八之助はめきめきと要領をつかんでいった。
八之助に対し惜しげもなく、より効率的な方法を教える。
新之助はその時に、それを他 の皆にも聞こえるよう見えるようにした。
辛抱強く八之助の間違いをただす姿勢に次第に同僚たちは新之助に心を開いていった。
八之助が関谷が会いたがっていると家に招いてくれた。同年代の同僚の家に招かれる事は皆無だったので自然と口の端が緩む。
関谷はついこの間まで一緒だったというのに大いに懐かしがってくれ、三人の話は弾んだ。
関谷が後は二人で呑めと八之助に言い、新之助にはゆっくりして行けと言って席を立った。
その時に、新之助はかねてより伝えたかった感謝を口にした。
つかえなさっぷりは八之助の演技だと分かっていた、周りとの軋轢を無くしてやろうという気持ちに甘えてしまった。かたじけないと言うと、
「ありゃ、ばれてたか」とカラカラと笑った。
ここにきて新之助は初めて仕事が楽しいと思えるようになった。
家に帰ればちせの笑顔だ。
しかし、やっと落ち着いたと思ったのもつかの間だった。
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