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「何故子が出来ぬのです!!」
母がちせを詰る声がした。
新之助は知らなかったが、母がちせに対して遠回しに嫌味を言い始めてもう随分になっていたらしい。言いたがらない下女のはなから聞き出した。
たまたま早く下城して耳にした母の言葉に耳を疑った。濯ぎももどかしく
「おやめください!何をおっしゃられているのです!」
とちせを庇う様に母の前に出た。
急に我が息子に咎められた母はバツの悪さもあってかいきなり、
すっくと立ちあがり
「嫁して3年子なきものは去れと申しますよ」
と非道な捨て台詞を言い自室へ戻っていった。
ちせの方を振り返ると、なんともいえぬ顔でそれでも笑おうとしていた。
「ちせの笑顔が一番だ」と言われたあの日から何があっても笑顔でいようと努めていた。
「すみませぬ、すみませぬ」ちせが何に対してかわからぬ詫びを繰り返した。
ちせは二十三になっていた。自分でも、もう子が出来ない様な気がしていたところであった。離縁されても仕方ないと思い始めていた。
親戚筋が集まっての親族会議の日が決まったのはそれからすぐの事だった。
新之助は朝から珍しく機嫌が悪かった。同僚たちも初めて見る、棘が体から出てきそうな新之助に誰も声もかけられなかった。
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