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話し合いの場ではすでにちせを離縁する方向で話が決まっていた。母も取り澄ました顔で頷いている。孤立無援だ。
議題はすでに次の嫁候補をどうするかに移りつつあった。今度は親戚の中から出してはどうだと声がすると待っていたと言わんばかりに盛り上がる。
結局そう言う事なのだ。
新之助はあまりの事に笑いがこみ上げた。
すると親戚たちがようやく本人を見た。
「よくもまあ、当主抜きで決められるものですな」
常にない嫌味な言い方に親戚の長老が反論する。
「そなたを盛り立ててきたのはこのわしらぞ」
「それはありがたく思っております。なれど妻や子の事まで」
そこまで言うとまた長老が
「百五十石のお祐筆の家が絶えてしまってもよいのか」とどなる。
「私はいっこうに構いません、それも仕方なしです」
これには母が激高した。余りの事にふらとしていた。胸が痛んだが隣にいた女に抱き留められたのを見て続けた。
「そんなにおっしゃるなら養子をとりましょう」
これには内心嬉しいものも多かったようでシンと静まる。
「で、ではどこから取るか話しあわねば」と言い出す長老の言葉を遮り
「あと一年ご猶予をくだされ」その間に子が出来ねば私はちせとここを去ります。夫婦養子でもなんでもお考え下さい。
「バカな、百五十石を捨て何が出来るつもりじゃ」
「父上も泣いておられます」と母が言う。
「何、父は母上がそんなことを平気で言われることの方が泣いておられますよ」と言い返す。
「今後一年間、あたながたは一人たりともこの家に寄り付かないでいただきたい、ちせの心身が壊れます、当主として伴侶として許すわけにはまいりません、悪しからず、さあ解散ですお帰りください!」
誰一人として動こうとしない。仕方ない
「当主命令だ!帰れ!」少々荒っぽい言葉を吐いた。
大音量はちせの待つ部屋にも聞こえていた。
見えぬ背中に両手を合わせた。
母は、はなに付き添われ自室にもどった。
見届けると足早に部屋に戻った。あれだけ言っても、ちせが部屋にいないのではないかと気が気ではなかった。
「ちせ・・・・・・」
部屋にちせの姿がなかった。
がっくりと膝をついたが、見渡せば部屋は元にもどっている。その上、奥の方から何やら言い合う声も聞こえてきた。
「あっちへ行きなさい」
「いいえ、お姑様、私は行きません」
「私はこの家の嫁です。お姑様の面倒を見るのは嫁の務めです」
「な、なにを、、」
ちせは笑いながら姑の布団を用意していた。
「あなたの顔をみているとまたふらふらします今日はお下がり」
「今日は・・・」
「当主が選んだ嫁ですからね」
ふんと鼻をならし顔をそむけたが母の顔には
ほんの少しだけちせが普通に接してくれている事の安堵が浮かんでいた。
同じ家の中で無視しあって暮らすのは耐え難い事をさきは身をもって知っていた。自分もあの時姑にこうして素直に寄って行けばよかったのかと遠い昔を思い出しもした。
ちせは、ではまた明朝と元気に言い置き出て行った。
それからさきは憑き物が落ちたように子をと言わなくなった。
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