ゆき江

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ーおはるー  三年ほど住み込みで奉公していたお店が潰れてしまい、途方にくれた。おっかさんが亡くなった時に世話して貰った奉公先だったので、帰る家なんてない。  桂庵(寝泊まり可能な求人案内所)の暖簾を潜ってみたものの、ここだってタダじゃない。早い事次の奉公先を見つけないと手元の銭は減っていくだけ。そう気持ちは焦るばかりだった。  桂庵の主人は、給金の良い奉公先に飛びつこうとする私に、ダメだね、と頑なに紹介さえしてくれなくて、文句を言う私を、ぎろりと一睨みした。 「世間を知らない十四の娘に高給を出す店が、お運びで終わると思ってるのかい?納得ずくで行かねばならないお人にしか紹介しないんだよ、うちは」 煙を吐くと、煙管をカンと灰入れに打ち付けた。 しょげる私に、 「まあ、もう少し待ちなさい、ちょっと当てが無い事も無いから」 と言ってくれた。 二日後、主人から呼ばれた。 「これは、もう少し年少の子向けなんで、給金がちっとばかり安いんだけど、住み込みにも出来るし、どうだい?」そう主人に聞かれた。 主には赤ん坊の子守りだけど、赤ん坊のおっかさんである若奥様が、あまり体が丈夫でないので、そちらの細々した事も時折手伝うって事だった。 住み込みで朝晩の食事がでるなら、給金はちっとばかり安くたって構わない。 どうかお願いしますと話を纏めて貰った。  
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