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驚いたことに、それから一月も経たぬうちに、新しい若奥様、おてつ様が嫁いで来られた。
祝言も上げず、しれっと納まったというのが正しいかもしれない。
ゆき江様とは全く違う方で、朝から酒をと、言いつけられれたのは驚いた。若旦那様と一日お部屋にこもられたかと思えば、呉服屋を呼びつけ座敷いっぱいに反物を広げさせ、着物を仕立てたり、駕籠を頼んで芝居見物に行かれり、とにかく、万事派手好みの方だった。
何よりも、悲しかったのは、お二人とも、坊ちゃんの事は一顧だにされない事だった。
ある日の事
「何を言ってるのですか、正一郎さん!」
奥様の声が響き渡った。
「そんな大きな声出さなくても聞こえてますよ。ああ煩い。だけど、その方が誠一郎だって幸せですよ、これから先、おてつにややができた時に、ねえ」
「何がねえです!あなたという人は誠一郎はあなたの長男ではありませんか、それを、実の母親まで奪っておいて、不憫だとは思わないのですか!可愛くはないのですか!」
「可愛いからこそ、敢えてここは外に出して」
「話になりません」
奥様の怒りに震えた声が聞こえてきた。
正一郎様が、怖い事を言われている。
私は、坊ちゃんをぎゅっと抱いたままガタガタと震えた。
おきみさんが、しっかりおしと支えてくれた。
旦那様も奥様も、今はあんなにお怒りになっていても、ゆき江様の時のように、若旦那様の言う事を聞いてしまわれるのだろうか。
そんな、そんな、あんまりだ。
そうだ、私が坊ちゃまをお守りしなければ。
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