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じいちゃんの青春
次の土曜日。私は一人でバスに乗り、じいちゃんの家に行った。誰に頼まれた訳じゃない。どうしているかな?と気になった。
「おお、ユリア。一人で来たのか?」
じいちゃんは嬉しそうに微笑んだ。ばあちゃんはベッドで眠っていた。
「じいちゃん。何か困ってることない?私が手伝えることあれば、何でもするよ。」
じいちゃんは、インスタントコーヒーを出してくれた。
「ミルクはないけど牛乳あるぞ。入れるか?」
「うん。砂糖入れて溶けてから牛乳入れるわ。」
じいちゃんといっしょにコーヒー飲んだ。
「ユリアはカレシいるのか?」
「まあ。カレシってほどでもないけど。仲良くしてる男子はいる。」
「オレの初恋の人はルミコだ。ちょうど、ユリアくらいの年だった。ルミコの家は貧乏で、中学校卒業してすぐオレの家のお手伝いに来た。住み込みで働きながら定時制高校に通ってた。オレの家は旅館だったから、そういう住み込みで働く女性は常に何人かいた。その頃、オレは東京の大学に行きたいと思って毎晩遅くまで受験勉強してたんだ。ルミコは定時制高校から帰る途中、たい焼きとかタコ焼きとか買って来ては、オレに差し入れしてくれた。」
じいちゃんの家が旅館だったなんて知らなかった。じいちゃんは確か、どこかの工場に勤めていたはずだ。
「オレが高校三年の時、家の旅館は火事で燃えた。父親も火事で死んでしまった。大学へ行く夢は消えた。母親と弟たちのために、オレは高校卒業したら、自動車の部品を組み立てる工場に就職することにした。遠い町にある工場だけど、高卒でも給料が良かった。その時、ルミコも着いてきた。ルミコはオレが働く工場の食堂で働いた。二人で稼いだ金の半分は実家に送った。貧しかったけどルミコがいてくれたから、オレは少しも苦しくなかった。」
なんか、いいなあ。と思った。ボケ-ッと平和な高校生活を送っている私は、そんなドラマみたいな人生に憧れる。
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