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君は僕の可愛い男の娘 前編
ある日、姉からとんでもない事を言われた────
「ぜーったいイヤや!死んでもイヤやっ!」
俺の姉は12歳年上だ。
昔から俺のことを自分の所有物かのように思っている節がある。
「チロ。あんた誰のおかげで今の生活が出来てると思ってんの?」
俺の名前は樋口 千尋。 高校二年生。
みんなからはチロって呼ばれている。
生まれも育ちもコテコテの大阪だったのだが、二年前にこの海沿いの田舎町に引っ越してきた。
というのも父親が海外赴任となり母親もそれについて行ってしまったので、生活能力のなかった俺は一人暮らしをしていた姉の家に転がり込むしかなかったのだ。
姉は仕事をしながら全ての家事をこなし、俺にお小遣いだってくれる。
だから姉にはすっごい恩がある。
感謝してもしたりないくらいなのだが……
「私の代わりにちょっと女装してパーティーに出てくれるだけでいいから。」
「全然ちょっとやないわ!めっちゃハードやろ!!」
今年29歳の姉は結婚に焦っているのか、結婚相談所に登録している。
入会費うん十万、月々の会費うん万円……
知り合うだけなのに高くね?
それもそのはず、男性会員は医者や弁護士、会計士、教職などのいわゆる高学歴層の方なのだそうな。
そういや姉は上昇志向が強かった。
子供の頃から自分の結婚相手に求めるものはズバリ、セレブと豪語してたっけ……
今度、医者ばかりがくる相談所主催の婚活パーティーがあるらしい。
でも姉はその日に、以前開かれた弁護士ばかりのパーティーでカップリングになれた人との初デートもあるらしい……
だったらもうそいつでええやんと言ったのだが、高い会費払ってるんだから掴めるチャンスは一つでも多くぶん取っておきたいらしい。
大阪人らしい損得勘定だ。
俺はいわゆるベビーフェイスで子供の頃からよく女の子に間違われていたし、姉と見た目がそっくりだ。
だからって17歳の弟を身代わりにするだなんて…頭がわいてるとしか思えない。
姉は問答無用の凄みを効かせて言い放った。
「いいチロ、一番良い男をGETしてくんのよ?」
いやムリだろ……
俺、男の子やぞ……
はあ…もう、逃げ出したい。
明日のことを考えるだけで腹が痛くなってきた。
「どしたチロ、元気ないな。生理か?」
「いつもテンション高いのに。気持ち悪いじゃん。」
机に突っ伏していた俺に、茶化すように話しかけてきたのは同じクラスの悪友二人だ。
クールで頼れる存在の一也ことイチ君と、単純バカなトオギだ。
ちょっとは真面目に俺のことを心配しろよ。
友達がいのないヤツらだな。
「いいよなおまえらは。彼女とイチャイチャしてりゃあええんやから。」
イチ君とトオギには可愛い彼女がいる。
俺なんか明日、見知らぬ男とイチャイチャせなあかんねんぞ。
考えただけでサブイボ立つわ……
あ、サブイボってのは鳥肌のことね。
「そや。おまえらって、女の子のどんな仕草にグッとくる?」
一応、明日の対策を練っておこう。
カップリングになりませんでしたなんてことになったら、空手黒帯の姉ちゃんに何をされるか……
考えただけで恐ろしい。
「ツンデレの子が俺だけにニコっとしてくれたり、お弁当とか作ってきてくれた時かな〜。」
トオギ…顔がデレッデレ過ぎだ。溶けるぞ。
「ベッドに押し倒した時に、先輩、優しくして下さいねとか涙目で言われたら堪んねえ。」
イチ君…相変わらずスケベだな……
てかそれってイチ君とトオギの彼女との話だよな?
俺はてめぇらのラブラブ話を聞きたいわけちゃうねんっ。
くっそリア充がっ!ハゲろ!!
「もうええわ…おまえらと話してたら心が荒む……」
ああ…腹が痛い……
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