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「……痛ってえ………」
いつにも増して、精神的な腹痛が酷い……
海岸沿いにある高台に建つ学校からは海が見下ろせる。
夏はあれほど賑わっていた海水浴場が、寒くなってきた今では人っ子一人いない。
足跡がひとつもない白い砂浜はとても綺麗だ。
12月になると冬のイルミネーション始まり、浜辺が300mにもわたって10万球もの電飾による光の造形で彩られる。
クリスマスイヴともなると恋人同士ばっかりだ。
今年も俺は一人かな……
まあ別にいっけど……
「連絡ちょうだい。待ってる。」
あの日から一週間が過ぎた。
シュウはまだ俺からの連絡を
待ってくれているんだろうか───────
「どしたチロ、元気ないな。生理か?」
「いつもテンション高いのに。気持ち悪いじゃん。」
おまえら他に言うことないの?
そっとしといて欲しいから誰もいない屋上で過ごしてたっていうのに……
イチ君とトオギ、わざわざ俺を探して来たんだろうな。
「いいよなおまえらは。彼女とイチャイチャしてりゃあええんやから。」
俺もお決まりのパターンで返す。
これでも一応心配はしてくれてるんだよな……
イチ君が肩を組んでスマホの画像を見せてきた。
それにはイチ君の彼女である一年生のナミちゃんと、その友達が映っていた。
「チロこの子覚えてる?前に見た時可愛い子やなあってデレっとしてただろ?」
してたような気がする。
確か笑顔が似合う子で笑うと八重歯が───……
「ナミちゃんによるとこの子チロのファンなんだって。だから今度……」
「八重歯はあかんっ!」
「はあ?チロ…八重歯ある子好みだっただろ?」
「今は見たないんやっ。今日は体調も悪いしもう帰る!先生に適当に言うといてっ!」
八重歯を見るとどうしてもシュウのあの無邪気な笑顔を思い出してしまう。
俺はイチ君から逃げるように下に降りる階段のドアノブに手をかけた。
「なあチロ。なんか悩んでる?」
イチ君に言い当てられてビクっと体が反応してしまった。
「俺らの仲なんだからなんでも言えよ。」
トオギが屈託のない笑顔でイチ君に続く……
イチ君とトオギの二人は小学生からの幼なじみだ。
高校入学と共に転校してきた俺に、関西弁教えてくれ〜って廊下で声をかけられたのが始まりだった。
二年になって同じクラスになり、三人でつるむことが多くなった。今では親友だと思っている。
イチ君もトオギも今の彼女と付き合う時、なんでも話してくれて俺も遠慮なく意見を言いまくっていた。
チロの時もボロクソに言ってやるから覚悟しとけよって言われたっけ……
でも─────……
「おまえらに言えるレベルの話ちゃうねん。もう…放っといてくれ!」
ドアを勢い良く開けて階段を駆け下りた。
イラついて思った以上にトゲのある言い方をしてしまった。
こんなことを言いたいわけじゃないのに……
「俺…めっちゃヤなやつやん……」
明るくて友達思いだった俺はどこいった?
吐き気がするくらいに気分はサイアクだった。
俺の家は学校から徒歩10分の距離にある。
5分ほどで、どうにも前に進めなくなってしまった。
歩く度に右の下っ腹が響くように痛む。
「…痛っ……」
きっと罰が当たったんだ。
せっかく好意を抱いてくれた人に背を向け、心配してくれる友達にも冷たい言葉を浴びせた。
この腹痛も吐き気も熱っぽさも全部、俺の罪に対する罰だ。
「チロっ大丈夫か?!」
電柱にもたれかかって一歩も動けずにいると、ボヤけた視界の端にイチ君とトオギの姿が見えた。
なんでいるんだ?授業中なのに……
「パーっと遊ぼうかと思って追いかけて来たんだよ!とりあえず横になれっ。」
イチ君とトオギは着ていた上着を脱いで地面に敷き、俺をその上に寝かせた。
こいつら…あんなに酷いこと言ったのに……
「イチ君、トオギ…ごめん……」
「そんなのいいから気にすんな。トオギ救急車呼べ。虫垂炎かもしれねえ。」
虫垂炎って…盲腸?
これは俺への罰じゃなくて病気?
ちょっと待て…救急車ってことは……
「トオギ…救急車ダメ…安田記念病院だけは……」
安田記念病院はシュウが働いている病院だ。
救急車なんかで運ばれたらシュウと鉢合わせしてしまう。
こんな学校の制服を着たままの男子高校生の姿で会いたくなんかない。
「なにチロ?安田記念病院がどうかした?」
「……そこっ…に……」
そこには行きたくないと言おうとした時、突然の激しい腹痛に声が詰まった。
なんだこの痛さ…いまだかって味わったことがない。
二人が呼ぶ声が聞こえたが声を出すことも出来ず、そのまま意識が薄れていった。
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