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けたたましいサイレンの音も、動き回るたくさんの人の切羽詰まった声も、全部分厚い壁の向こう側で起こっているように聞こえた。
痛さで体が強ばる……
お腹の中をぐちゃぐちゃに掻き回されてるみたいだ。
俺このまま死ぬのかな──────
怖くて心細くて泣きそうになっていた時、お腹を抑える俺の手を包み込むように、温かな手が重なった。
この優しい温もりを…俺は知っている。
「大丈夫だよチロ君。僕が助けてあげるからね。」
「……シュウ…さん……」
なんでシュウが俺の手を握り、優しく微笑んでいるのだろう?
そうか……
きっと最後に幻覚を見せてくれてるんだ。
嬉しくって涙が溢れてきた。
「…本当はシュウに連絡したかったし…会いたかった……」
「うん。わかってる。」
口元に少しのぞいた八重歯を見て、どんなに打ち消そうとも、この思いは消せないって思ったんだ。
俺はシュウのことが好きだ───────
目を覚ますと、ICUのベッドの上だった。
左手には点滴、腹にはドレーンという管がくっついてる自分の状況にわけがわからずボンヤリしていると、看護師がきて説明してくれた。
腹痛の原因はイチ君が言ったように虫垂炎だった。
ただ、俺の場合は痛みを感じてからかなり我慢をしていたので、虫垂が破れて腹膜炎を起こしてしまっていたらしい。
腹膜炎はそのまま放置しておくと命に関わるような重大な病気だ。
すぐさま緊急手術が行われた。
破れた虫垂を切除し、生理食塩水で汚れたお腹の中を念入りに洗浄したので、手術は二時間にも及んだという。
ここはどこですかと聞くと、安田記念病院ですという答えが返ってきた。
俺は安田記念病院は行きたくないと言ったのに、トオギは行きたいと勘違いしたようだ。
あれは夢じゃなかったのか………
シュウが俺を
助けてくれたんだ─────
まだ温もりが残っているような感覚がして、シュウが触れてくれた手を…ギュっと握った。
「チロ君っ目が覚めたんだねっ!」
白衣姿のシュウが走ってきて寝ている俺に抱きついた。
腹っ……腹痛いって!!
「四ノ宮先生!なに患者さんに勢いよく抱きついてるんですか?!」
「ごめん、嬉しくてつい。」
看護師に怒られたシュウは俺だけに見えるようにペロっと舌を出した。
男の姿のままの俺でも、変わらぬシュウの態度を見てホッとした。
どうやら俺は丸一日眠っていたらしい。
「ずっと僕のいるICUで縛っておきたいけれど、すぐに一般病棟に移れるよ。合併症とか何事もなければ十日ほどで退院出来るけど…僕としては軽くなんかになって欲しいな。」
「シュウさん…心の声がダダ漏れですよ。」
俺が意識を回復したと聞いて廊下で待っていた姉がすっ飛んできた。
もうずっと泣いていたんだろう……
目を真っ赤にした姉がさらにボロボロ泣くのを見て申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
「良いお姉さんだね。」
シュウは俺の頭をポンポンと撫でると、他の患者さんを診にいった。
そうだよ……
良い姉ちゃんなんだよ……
本来なら
シュウと姉ちゃんが出会うはずだったのに────
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