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「間違えたっ!今のは無しで!!」
密着したままでシュウを見上げたので、鼻先が触れそうなほどシュウの顔が近かった。
俺の動揺を楽しむかのようにイタズラっぽい笑みを浮かべている。
「大人の世界は怖いよ?高校生にはまだ早かったんじゃないかな〜。」
うっ…完全にバレてる。
なにコレ……俺どないしたらええの?
超恥ずかしいんだけど……
「まあ僕も、君がチンピラに絡まれてるとこを見てなかったら疑いもしなかったんだろうけどね。美容整形外科医の拓也まで騙せてるんだから立派なもんだよ。」
やっぱあれが不味かったか…地声で悪態ついたしな……
褒められてるんだろうけど、ぜんっぜん嬉しくないっ。
─────にしても……
いつまで俺達はこの状態なのだろうか……
「あのっシュウ…さん。いい加減離してもらえませんか?」
「うーん、どうしよっかなあ。チロ君可愛いからなあ。」
はあ?男だとわかってるのに可愛い?
シュウは困惑する俺のことを抱きしめたまま個室へと連れて行き、そこにあったソファへと俺を押し倒した。
「ちょっ…なにする気やっ?!」
「少ししか飲んでなかったけど、アルコールと鎮静剤の影響が出るかもしれないから横になってた方がいいよ。」
だったらそれを先に言えよ!勘違いするだろっ。
「なんか期待しちゃった?」
シュウはペロっと舌を出し、水持ってくるねと言って部屋から出て行った。
あの野郎…面白がりやがって……
でも…婚活パーティーに女装して参加してる俺のことを、怒るでもなく笑うでもなく、助けてくれて看病までしてくれてるんだよな……
きっと、ものごっつう良い人なんだ。
シュウなら姉だって気に入ってくれただろうに。でももうバレちゃったし、無理だよな……
頭にモヤがかかったみたいになってきた。
これがアルコールの影響なのか薬の影響なのか、それとも全く違うなにかなのか……
気分はサイアクだった。
しばらくするとシュウが水を持って帰ってきた。
「体調どう?」
「お腹が痛い……」
「お腹?ちょっと診てあげるよ。」
「精神的な腹痛なんでっ!」
触ろうとしたシュウの手を避けてしまった。
なんだろう…これ以上俺に優しくしないで欲しい。
シュウはソファの斜め前に置いてあった椅子に腰を下ろした。
「チロ君は女装が趣味なの?」
「趣味なわけない。今日は姉に用事があったんで単なるピンチヒッターです。」
「ふ〜ん。普通ここまでする?」
「姉には世話になってるんで…それに、姉が結婚出来ない原因は俺にもあるんで。」
姉には三年間付き合ってた彼氏がいた。
俺と二人暮しを始めた時に別れてしまったけど……
あれだってきっと俺が原因なのに、姉はそのことについてなにも言わない。
結局俺はいつも姉ちゃんに甘えてばかりだ。
今日が上手いこといけば、ちょっとでも恩返し出来たのに…なんだこの体たらく。
ああもう、情けなくて涙がにじんできた。
シュウがダメなら次を探さなければいけないのに。
椅子の肘当てに乗せていたシュウの手を、俺はすがるように握りしめた。
「シュウさん…大人の男の人って女の子のどんな仕草にグッとくる?」
シュウが驚いた顔をしてパッと手を引っ込めた。
なんだ……?
「……チロ君、それってわざと?それとも天然?」
落ち着いた低音ボイスだったシュウの声が、なぜだかうわずっていた。
「潤んだ目でそんなこと聞かれたら、誘われてるようにしか思えないんだけど?」
シュウは寝ている俺に覆いかぶさるように体を寄せると、優しく頬を撫でた。
触られたところがゾクゾクする……
「俺っ別にそんなつもりじゃ……」
シュウの顔がさらに近寄ってくる。
どうしよう…俺…………
シュウから目がそらせられない。
シュウは撫でていた俺の頬をギュッと強く摘んだ。
痛ってえ!!
「チロ君、脇甘すぎだから。そんなんじゃすぐ食べられちゃうよ?」
「食べられるって…俺、男ですよっ?」
「世の中にはそんな人がたくさんいるよ。知らない?」
いわゆるBLってやつか……
……って、じゃあまさかシュウも……?
「僕は違うから。」
シュウを疑いの目で見ていたらキッパリと否定されてしまった。
ですよね〜…だったらこんな婚活パーティーになんか来るはずがない。
なに考えてんだ俺は……
「……違うはずなんだけどね……」
ボソリと呟いたシュウの言葉は、小さすぎて俺には聞き取れなかった。
シュウに支えられてソファから起き上がってみた。
どこもおかしいところはない。
シュウからも軽く診察を受け、大丈夫だろうと言われた。
「よっしゃあ!!」
気合を入れ直して個室から出た。
まだ時間は半分ある。第2ラウンドの始まりだ。
「さっきの質問だけど。チロ君はそのままで良いと思うよ。」
シュウは俺の頭をポンポンと触りながら眩しそうに微笑んだ。
「まあ…お姉さんのために頑張って。」
そう言って俺とは別のテーブルに座ったシュウの横顔が、なんだか寂しそうに見えた。
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