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俺は、放課後の街の、閑散とした歩道を駆けていた。
全力疾走しているものだから、校門を出て数十メートルで、既に息は上がりきっていた。
まだ秋は浅く、汗で体にへばりつく制服がうっとおしい。
目的地は、俺の高校と駅の中間辺りにあり、高校からは徒歩なら十五分くらいかかる。
その時、唐突に車道から声をかけられた。
「……愛之助、なんでそんなに急いでるの?」
自転車を漕ぎながら、珍しいものを見るような顔で並走しているのは、幼馴染の吉敷澄香だった。長い髪を軽く風になびかせながら、涼しい顔で横を走っている。
俺と同じ高校一年生なのに、澄香ばかりがどんどん大人びていく。最近、俺の周囲の男子からも浮ついた眼で澄香を見ているやつらがいるのを感じる。不愉快極まりないことだ。
小学校からの腐れ縁で、気も合うし、異性の友達としてはかなり仲がいい方だと思う。そこら辺の男友達よりも信頼できるし、きっと向こうもそう思ってくれている。
しかし、今はそれがまずい。
「ちょ、ちょっとな。澄香は駅まで自転車だっけ。先行けよ」
「どうせ今の時間じゃ、乗る電車同じになるでしょう。それに、お母さんが会いたがってるから、今日顔だけでも出しに来ない?」
「あー、俺バイト始めてさ、今日は無理なんだ」
「アルバイト? だから急いでるの?」
「そ、そうそう」
「よかったら自転車貸そうか、場所教えてくれれば私後で取りに行くから」
澄香は、いいやつだ。昔からそうだったし、きっとこれからもそうだろう。だが、だからこそ今はまずいのだ。
「うおっ!? あんなところに空飛ぶ青いナポリタンが!」
「えっ?」
明後日の方向を指さす俺につられて、澄香が顔を背けた。その隙に、俺は素早く路地に入り込む。歩道と車道の間にはガードレールがあるので、澄香はすぐには追って来られまい。
「ちょっと、愛之助!?」
咎める声を聞き流しつつ、俺は暗い隘路をを疾走した。
ちらりと振り返った視界の中で、澄香の左手薬指にはめられた、やや幅広の指輪が光るのが見えた。
無理矢理、視線を引き剥がすようにして前へ向き直り、走る。
ここまで来れば、もう路地裏をたどって行ける。何しろ、目的地も路地裏なのだから。
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