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* Sweet.1 *
九重 夕里には、放課後の密やかな楽しみがある。
ピンク色のスマートフォンの画面を下から上へスクロールさせながら、目に留まった写真に「いいね」を送る。
位置情報を頼りに初めて降り立った駅近くで、夕里は写真が投稿された風景を探していた。
うんうんと唸りながら、スマートフォンの中の写真と現実の風景を照らし合わせていると、スーツの男性に声をかけられる。
「君、可愛いね。お小遣い欲しくない?」
「……誰かと間違えてません?」
男は5本の指を立てて夕里に提示するが、全くもって理解不能だった。
夕里が早足で進み始めるも、男に引き下がる様子はない。
先に回り込まれて、夕里の行く道を塞いでくる。
「君くらいなら6万出せるよ。週1で会ってくれるなら1回7万出してあげる」
「すみません。今急いでるので」
まさか自分が同性に性的な目で見られているとは思わない夕里は、男の言葉を無視して再び手元の画面に目を落とす。
──新手の詐欺かよ面倒くさい。もっと金持ってそうな奴に声かければいいのに。
無視を決め込んでいると、不意に腕を掴まれて夕里は仕方なしに顔を上げた。
荒くなった息が髪にかかり、不快になる。
「あのー……俺、お金持ってないんで……」
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