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「あ、ありがと……。夕飯とか、送ってもらうのとか……」
「どういたしまして。本当にここでいい? 強がってない?」
「別に……電車の乗り方くらい分かる。方向音痴じゃないし」
「いや、そういうことじゃなくて」
夜道には気をつけろよ、と茅野が夕里の背中に向かって投げる。
定期をかざして改札を抜けて、ホームに続く階段を踏む前に一度だけ振り返った。
吸い寄せられるみたいにまた黒目とかち合って、夕里はすぐに逸らした。
電車に揺られて途中で高校の最寄り駅を挟み、数駅走ったところで、夕里は手元のスマートフォンをバッグにしまい、スーツの列に続いて降りる。
鍵のかけられていない門扉をくぐり、夕里は自分の家に入った。
明かりのついているリビングには、すでに千里が帰っていていつも通り家族3人分の料理がテーブルに並んでいる。
ソファで寝ている千里の胸元には、光ったままのスマートフォンが落ちている。
茅野の家を出る前から届いている「いつ帰るの?」のメッセージの数は、もう3桁に届きそうだ。
忍び足で自分の部屋へ直行しようとすると、後ろで呼び止める声がして、夕里はぎくりとする。
「おい、バカ兄貴。遅くなるなら連絡しろって言ったよな? 夕飯つくって一緒に食べるために、何時間も待ってたんだけど?」
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