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「ん? どうしたの。俺に会いに来たの?」
「……そうだけど。1つ、お……お願いがあって」
茅野以外はほとんど初対面の顔ぶれで、背に腹は変えられない。
体育の授業から帰ってきたばかりで、目当ての体操着は今、茅野が身につけている。
その裾をくいくいと引っ張って、夕里はこの世で1番憎たらしいイケメンに頭を下げて頼み込んだ。
「レポート書きたくないからぁ……茅野の体操服貸して」
「汗かいた後だけどいいの?」
「し、しょうがないから我慢してやるっ」
嫌な態度は取りたくないのに、茅野の前だと意地を張ってしまって嫌みなやつみたいになる。
はいはい、と素直になれない夕里の前でいきなり着替えを始めるものだから、つい視線を逸らしてしまう。
──俺も茅野も男なんだし、別に着替えるところ見たって大丈夫なのに……っ。
視界に入れないように意識しているほうが馬鹿みたいだ。
角も立たないくらいのゆるゆるのクリームの中に溺れてしまっているみたいで、息苦しい。
その中の放り込まれるのなら、むしろ本望なのに。
甘党と思春期は思っていたよりも相当重症らしい。
自分の教室へ戻ってくると、男子はほとんど外へ出払っていた。
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