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ぽってりと濡れた唇をごしごしと手の甲で拭いながら、したり顔で余裕綽々にしている茅野を睨む。
「顔真っ赤にして、説得力ないよ?」
「う、う……うるさいっ! お、お前がっ! ずっとキスするからぁ!」
ファーストキスを奪われた件について、夕里はわんわんと騒ぎ立てた。
夕里が煩くなると、茅野はもっと得意そうにする。
「すっごく意識してくれてるじゃん。嬉しい」
「俺は嬉しくない! 男とのちゅうなんてノーカウントだからな!」
もちろん舌まで入れられたキスは忘れられるはずがなかった。
地団駄を踏む夕里を笑いながら、茅野はじゃあな、と土産袋を持った手を振って出ていく。
「舜君帰ったの? というか、お兄ちゃん……床に伸びてどしたの」
「……さっきのはノーカウントだし事故だからぁ……」
「……はい? ふざけてないで後片付け手伝ってね、バカ兄貴」
茅野が帰ったことを確認すると、千里は被っていた健気で面倒見のいい弟の仮面を自ら剥いで、いつものつん全開の姿に戻る。
数分間のうちに起こった現実が受け入れられなくて、夕里は冷たいフローリングの上でしばらく身悶えていた。
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