4人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
友斗出産編
友斗の妊娠がわかったのは2月だった。主人は喜ぶ代わりに青ざめた顔で嘘だろと言った。
生理が1週間遅れたのが気づくきっかけで、それから一悶着の末に市販の検査薬を使って陽性を確認した。妊娠5週頃でなければ病院に行っても確定診断ができないとどこかで読んだ。
産婦人科では妊娠していると告げられたが、おめでとうとは言われなかった。前の生理日と生理周期を書けと言われて、きちんと記録していなかったことを悔やんだ。恐らく、出産予定日を決めるために書かされたものだからだ。
出産予定日及び母子手帳の受け取りは妊娠3ヶ月頃と言われた。なので、それまでの検診は全て自費である。1回につき、5000円くらいかかった。
翌日、予定していたオーケストラコンサートに行った。職場の同僚がビオラを弾いていた。帰りにしゃぶしゃぶに行ったので、葉酸の豊富そうな青野菜をたっぷり食べた。
2週間後につわりが来た。まず、お弁当の冷凍食品の匂いがダメになった。コーヒーも飲めなくなった。フルーツジュースすら吐いた。
カフェインが良くないのは知っていたが、精神の安定のためにコーヒーの香りだけ嗅いだ。
2回目の検診で、出血がみつかった。
胎児と同じくらいの、1cmくらいの出血だった。
「赤ちゃんもまだ小さいから簡単に流されちゃうから」
と医者が言うので、すごく怖かった。ゆっくり歩くように注意したり、電車の中はなるべく座るようにした。
妊娠を知った自称カウンセラーが、前置胎盤の話や母子共に死亡寸前だった話をしてきた。なぜこのタイミングでそんな不吉な話をするのか、その神経を疑った。だって、そのカウンセラーは男性で、自分の奥さんの話というわけでもないのだ。僕の不安を煽って愉しむために、他人の話を利用していると感じた。
3回目の検診で、出血が小さくなっていることが確認された。
もう9週なので、心拍が気になっていた。もし心拍の確認がとれなかったら、流産のおそれがある。
職場の先輩である美智子さんは3回の流産を経験していた。心拍確認のときに流産の兆候があったらしい。1度目は、職場の皆に報告してしまって、後の報告が大変に辛かったらしい。
私もつわりで具合が悪かったので、気の利く人には体調を心配されていたが、その人にだけは本当のことを話し、心拍の確認がとれるまでは秘密にしてくれとお願いした。
病院の経膣エコー検査で、心臓のところがチカチカ光っているのが見えた。医者によると心臓が動いているらしい。ここではじめて、おめでとうございますと言われた。9週なので妊娠3ヶ月に入った。
この頃、毎朝牛乳を飲んだし、夜中にパンを食べた。空腹で胃がからっぽなのも気持ちが悪い。食べても食べなくても、どうせ毎朝吐くのだ。食べて吐いて、それから会社にいく毎日だった。
心拍の確認ができると流産の可能性はぐっと減って、1%になるとネットで読んだ。その1%も恐ろしくって、つわりが軽くなるたびに胎児の心配をした。
最初のコメントを投稿しよう!