そしてついに

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箱の中の小分けにされたお菓子が半分無くなった頃、リビングのドア越しに物音が聞こえてきた。希さんが帰って来たようだ。私は慌ててお菓子の空袋をゴミ箱に投げ、何事もなかったように壁時計を確認した。 今は21時過ぎ。飲んできた割には意外と早い。おかげですっかり油断してしまっていた。 「ただいま」 「あ、希さん。おかえり」 「帰ってたんだね。お疲れ様。ご飯食べた?」 「帰りに食べて来たよ」 シレッと嘘をつきながら、少し残っていたペットボトルのお茶を飲み干した。中途半端にお菓子を食べたら逆に空腹感が増してしまった。後でコッソリおにぎりでも作ることにしよう。 それにしても希さんは、飲んだ割には全然酔っている雰囲気がない。心なしか少し元気がないようにも見える。飲み会で何かあったのだろうか。とりあえず元気を出してもらおうと思い、隣に座った希さんに菓子箱を差し出した。 「はい、お土産」 すると、希さんはお菓子を手に取りながら、心ここにあらずといった様子で呟くように言った。 「那央、今までごめんね」 「ん? ……なに?」 なんだろう、この意味深な謝罪は。そしてこの深刻そうな顔は。 何か嫌な予感がする。 「那央、あのさ……」 「ん?」 「あとで私の部屋に来て」 心臓がドクッ……っと嫌な音を立てた。 こんなことを言われたのは初めてだ。 わざわざ私を部屋に呼ぶということは、何か落ち着いて話さなければならないことでもあるのだろう。 もしかしたら、私が一番恐れている言葉をここで聞かされてしまうかも知れない。 「えっと……。なんか絶望的な話?」 「え、絶望的って?」 「いや、同居やめるとか」 「違うよ。そんなこと考えてない」 「……良かったびっくりしたー。やめてよ心臓に悪い」 本当に心臓に悪い。今回ばかりは本気でドキッとした。出て行かれる要因は山ほど思い付くからだ。 でも、そういう話じゃないとしたら、希さんのこの様子は一体どうしたというのだろう。やっぱり、さっきまで一緒に飲んでいた相手と何かあったとしか思えない。
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