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その夜、セミナー会場と同じビル内の和食料理店で交流会が開かれた。2日間に渡るセミナーだったため、遠方からの出席者は近隣のビジネスホテルに泊まる予定になっていた。私自身も遠方組だった。
『……あの、藤沢さんでしたよね?』
先にアプローチして来たのは那央の方だった。交流会に出席した女性は那央と私のみで、一番話しかけ易かったのが私だったのだろう。
『はい。藤沢希です。先程はありがとうございました』
『こちらこそありがとうございました。ディスカッション楽しかったです。……あ、三浦那央です』
その場で名刺を交換し、お互いの名刺を見ながら会話を交わした。
『三浦さんはお花屋さんなんですね』
『はい。主にバイヤーやってます』
『バイヤーっていうと、やっぱり日本全国飛び回ってるんですか?』
『時々。年一くらいで海外に行ったりもします。海外でしか手に入らない品種もありますから』
『え、すごい! 憧れます。そういうお仕事』
那央は嬉しそうな顔で自分の仕事について話してくれた。屈託のない笑顔を浮かべたその表情を見た時、まるで夢を語る少年を見ているかのような感覚に陥った。
『藤沢さんはブライダル関係のお仕事を?』
『ええ。プランナーのサポートが主な仕事です』
『じゃあ私の仕事とどこかで繋がってるかも知れないですね』
20代半ばの大人の女性で、女性としての魅力に溢れた人。だけど何故か話していて女を感じない。“中庸”という表現がしっくりくる。
話しているうちに、外見の印象から感じた苦手意識がいつの間にか消えていた。初めて体験した不思議な感覚だった。
後に那央が髪をバッサリ切った時、不思議な感覚の正体が分かった気がした。外見に囚われて、那央を勝手に『女性らしい人』と決め付けていたせいで、彼女の本質とのギャップに感覚を惑わされていたのだ。
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