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『まるで別人だね』
『前もショートだったんだけどね。なんとなく伸ばし続けてた』
『でも今の方がしっくりくるな。やっと本当の那央ちゃんを見せてもらった感じ』
『そういや希さんってさ、私の外見一回も褒めたことないよね?』
『そうだっけ?』
『うん。変かも知れないけど、そういう人と出会えて嬉しかった』
最初はおかしなことを言う子だなと思った。
だけど、自分自身にも思い当たる節があることにふと気付いた。外見を褒められて嫌な気持ちはしないものの、それを理由に近付いて来る男性には心を閉ざしてしまう。
私のことをよく知りもしないうちに好意を寄せて来る人は信頼できなかった。そのせいでずっと恋愛を拗らせ続けていて、まともに男性と交際する機会もなかなか得られず、いつしか結婚願望すらも完全に頭から消えていた。
『……だからかな。那央ちゃんと一緒にいると安心するのは』
『そうなの?』
『うん。他人じゃない感じ。言葉じゃ表現できないんだけどね』
『今まで、そういう人と出会ったことない?』
『ないよ。男女問わずね。法律が許すなら那央ちゃんと結婚したかったな』
『じゃあ一緒に住んでみる? 私のマンションの部屋余ってるから試しにさ』
『えっ!』
『会社通えない距離じゃないでしょ?』
『……まぁ、楽しそうだよね。それもいいかも』
あれから4年が経った今でも続いている那央とのルームシェアは、元々はこんな軽い冗談から始まったものだった。
そして、同居開始から半年が過ぎた頃、那央が泥酔状態で会社の飲み会から帰ってきた。
『……ちょっと飲み過ぎた。飲まされ過ぎた。今時こんなのパワハラだよ……』
玄関で膝を付いて壁にもたれ掛かり、そのまま倒れてしまいそうな那央に慌てて駆け寄った。
支えた身体から体温が伝わる。腕が偶然那央の胸に触れてしまい、その柔らかさに一瞬だけ意識を奪われた。
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