運命の同居人【希視点】

7/10
前へ
/128ページ
次へ
『那央、大丈夫? 横になってて。水持ってくる』 『いや、横になると気持ち悪い……』 『吐いて来なよ。その方が楽になるから』 『……耐える』 『えっ、無理しない方がいいって』 那央に肩を貸して部屋のベッドに寝かせた。水を飲んで多少は落ち着いたのか、呼吸の乱れは先程よりも軽くなっている。 ベッドのそばで那央の額をそっと撫で続けていると、那央は虚ろな視線を私に向けて呟くように言った。 『ねぇ、希さん……』 『ん? どうしたの?』 『今、好きな人っている?』 『え? 那央だよ』 『……ホント?』 『うん。那央が一番好きだな』 『じゃあ……』 那央はそこで言葉を止め、静かに目をつぶって首を横に振った。少しの沈黙のあと、那央がまた弱々しい声で呟いた。 『私も、希さんのことが好き……』 『うん。嬉しいよ』 『でも……、希さんの好きとは違うかも』 『……ん?』 『いや、何でもない。この先もここに住んでくれる?』 『うん。もちろん』 『だったらそれでいいや。うん』 ーーあれは多分、私への愛の告白だった。その後も、ちらほらとそれを窺わせるような言動が見て取れた。 だけど那央は決定的なことを言わない。言わないでいてくれるのをいいことに、私は今の居心地のいい環境に甘んじている。 「……あの、藤沢課長?」 そこでふと、隣の五十嵐さんの存在を忘れて回想に耽っている自分に気付いた。五十嵐さんは私の顔を覗き込むように見つめている。
/128ページ

最初のコメントを投稿しよう!

619人が本棚に入れています
本棚に追加