運命の同居人【希視点】

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那央はいつから私のことが好きなのだろう。 というか、私の勘違いではなく、本当に那央は恋愛感情として私を好きなのだろうか。 疑問が次々と湧いて出てくる。 だけどその疑問の答えを得たところで何が変わるんだろう。 「……それだけじゃないと思ってるんだけどな」 「プラトニック的な? でもそれ課長の主観じゃないですか。好きな人が目の前で寝てても手を出せないって拷問に等しいですよ。私にも経験ありますけど」 「えっ、五十嵐さん意外と肉食? 女性でもそんなもんなのかな?」 「好きな相手ならそんなもんですって。それは男女関係ないです」 那央とそういう関係になることなんて一度も考えたことはなかった。 ……いや、『ということにしておきたかった』が正解だ。 考えてみれば、私は今まで意識的に那央との接触を避けていた。それは裏を返せば意識し過ぎているということ。 私は那央よりもずいぶん年上で、年上だからこそ安易に感情に流されてはいけないと自分に暗示をかけ、那央の気持ちを見ないようにして自分を抑え込んでいたのだ。 私を抑え込んでいたのは、五十嵐さんの言う通り『性別の壁』だ。他人事である限りはそういうことに抵抗感はないにしろ、いざ自分自身がその状況に置かれると少し身構えてしまう。 でも、私がそうして来たことで、那央がこれまでにどれだけ苦しい思いをして来たか。私が自分の気持ちに素直になってさえいれば、長い同居生活の中で時折見せていたあの切ない顔も見なくて済んだはずだ。 後悔と同時に那央への想いが溢れ出した。私が何よりも恐れているのは那央を失うこと。那央がそばにいてくれれば他に何もいらない。そう認めるまでにずいぶん時間が掛かってしまった。 まさか五十嵐さんの言葉で自分の気持ちに気付かされてしまうとは思わず、私は勢いで五十嵐さんの手を両手で握りしめた。 「五十嵐さん、ありがとう」 「えっ? なんかお役に立てました?」 「モヤモヤしてたのが吹っ切れた気がする。はっきりさせないとね」 「……まさか同居解消ですか?」 「どうかな。話し合い次第だね」
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