ずっと欲しかったもの

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長い間ずっと欲しかったもの。 それを今、思い掛けず手に入れた。 そっと触れ合うだけのキスで嘘みたいに身体が熱くなった。優しくて繊細な口づけから私への愛情が伝わって来る。 この繊細な唇を傷付けてしまわないように、腹の底から湧き上がる欲望をグッと抑え込んだ。 希さんが私に伝えたかったこと。それはこの行動で分かる。でも、突然のことをまだ手放しには喜べない。 惜しい気持ちを抑えてそっと唇を離し、希さんの目を見つめた。 「……こういうこと?」 「うん」 「どうして? そんな急に」 「那央が離れて行くのがイヤだから」 きっと希さんは、今日一緒に飲んだ相手に私のことを話したのだろう。そして多分『そんなの相手にとっちゃ拷問だ』とか責められた。じゃなきゃ急にこんなことはしないはずだ。 「別に離れる気なんてないよ」 「でも……」 「だから言ってんじゃん。私は希さんと一緒にいられるだけでいいんだって」 最近やっと本心からそう思えるようになったところだ。それに、私と一緒にいたいからって無理をしてまでこんなことはして欲しくない。 それでも希さんは、私の言葉を否定するように微かに首を横に振った。 「嘘だよ、そんなの」 「え?」 「シャワー浴びてくる。あとで来て」 これはつまり、やっぱりそういうことなのだろうか。もう希さんの本心が分からなくなった。 でも、希さんは人にも自分にも嘘をつかない誠実な人だ。長く一緒に暮らしている私にはよく分かっている。そんな人が安易な気持ちでこんなことを言うだろうか。
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