ずっと欲しかったもの

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複雑な気持ちを抱えたままリビングで希さんを待った。テレビを観ていても何も頭に入って来ない。 希さんに迷いは見えなかった。多分本気で私とそういうことになるつもりなのだろう。もちろん、嬉しくないと言えば嘘になる。現に私の心臓はさっきから素直にドキドキしたままだ。 あのキスの余韻はまだ消えていない。本気で好きな相手と触れ合うことがこんなに幸せなことだったなんて初めて知った。 あの感覚は多分、この先もずっと忘れない。希さんもそう思ってくれていることを心の中で密かに願った。 「那央、お風呂いいよ。ごめんね、先に入らせてもらって」 「いや、長風呂待たすと申し訳ないし」 いつもはダラダラと長風呂している私も、今日はさすがに秒単位で時間を気にして即完了だろう。もう髪を乾かす余裕すらないに違いない。 「那央も麦茶飲む?」 「あとで。シャワー浴びてから飲むよ」 希さんは氷の入ったグラスをテーブルに置き、冷蔵庫から持って来た麦茶をグラスに注いだ。そして、そのまま私の隣に座って無言のままテレビに視線を向けた。 でもきっと、私と同じで内容なんか頭に入っていない。気持ちを探り合うような変な空気が部屋に漂っている。 「ねぇ、希さん」 「ん?」 「あのさ……、もしかして無理してない?」 「……あれでも伝わらなかった?」 「えっ! いや……だってあんまり急だからさ」 「言葉じゃ信じてもらえないと思って。いつも好きだって言ってるから」 「……何かあったの?」 「今さら気付いたの。自分の気持ちに」 ふざけている様子も、嘘をついている様子もない。見つめ合う空気がいつもと違う。 「那央、一応確認させて」 「なに?」 「私のことどう思ってる?」 「……そりゃ、好きだよ」 「私の勘違いじゃないんだよね?」 「……うん」 すると、希さんは隣から私の身体にそっと抱き付いて来た。シャンプーのいい匂いにまたクラッと来る。 「さっきはごめんね。那央の気持ちも確認しないで。ちょっと落ち着き失くしてた」 「……いや、嬉しかったよ」 「だったらいいけど。私もこういうことは不器用だからさ」 そしてまた、希さんの唇が私の唇に優しく触れた。 「嫌じゃなかったら後で来て。那央と過ごしたい」 心臓が騒ぎ出す。 長い間抱えていた一方的な想いがやっと報われたのだ。
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