ずっと欲しかったもの

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浴室に入ってから、一度自分を落ち着けるために大きく深呼吸した。これからたぶん希さんとそういうことをする。それなら雑に入浴を済ませずに無駄毛の処理とかスキンケアを念入りにやらなければならない。 鏡を見ながら女磨きに勤しんでいると、一度落ち着けた心が少しずつ焦った状態に戻って来た。そして浴室を出てパジャマを着た頃にはもう完全にダメな人になっていた。 髪も乾かさずにバスタオルを肩に掛け、焦りを悟られないように普通の動きで希さんの部屋へ向かった。 部屋の前に立ち、もう一度深呼吸する。控え目にノックしたドアの向こうから返事が聞こえてくる。 ドキドキを抑えてドアノブを下げ、滅多に入ることのない希さんの部屋を覗き込んだ。 やっぱり家具にこだわりのない私の部屋と違って統一感のあるオシャレな部屋だ。しかもちょっといい匂いがする。 すると、ベッドの上で何かを読んでいた希さんが横にしていた身体を起こし、ドアの前で立ったままの私に近付いて来た。 「髪乾かしてないじゃん」 希さんは私の目の前に立ち、ちょっと呆れ気味ないつもの笑顔を見せた。 髪を乾かす心の余裕がなかったのだ。きっとそれくらいのことは希さんも察してくれている。適当に「いつも自然乾燥だから」とごまかすと、希さんは私が肩に掛けたバスタオルを手に取り、濡れた髪を優しく拭いてくれた。 「傷むよ、ほら。せっかくきれいな髪なのに」 今、至近距離に希さんの身体がある。斜め下にある唇が私をまた誘惑している。 堪らなくなって目の前の身体に腕を回した。薄い布越しに触れる胸の柔らかさと体温が私の心臓の動きを更に速めた。 「……ごめん、嘘だよ」 「……ん? 何が?」 「一緒にいられるだけでいいなんて……」 思わずその身体を強く抱きしめ、少し強引に唇を重ねた。私の髪を撫でていたバスタオルが足元に落ちたのを感じた。 さっきと同じように身体中に熱が広がる。もう抑えが利かない。割り込ませた舌に柔らかな感触が絡み付く。とろけるような甘い吐息が余計に私の欲望を湧き上がらせる。 深いキスが一旦離れた時、希さんの唇が私の耳元で熱い吐息を漏らした。お互いに息が上がっている。 「ねぇ、那央……」 「ん……?」 「……もう、好きなようにしていいから……」 囁くような切ない声を耳元で聞いた瞬間、私の理性は完全に消し飛んだ。
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