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お互いの熱がようやく冷めた頃、私たちは何も言わずにベッドの上で寄り添い、ただお互いの体温だけを感じ合っていた。さっきまで気にならなかったエアコンの音が結構響く。
まだ夢を見ているような気分だ。まさか本当に希さんとこんな関係になれるとは思わなかった。
「ねぇ、希さん」
「ん?」
「好きになってくれたって解釈していいの?」
ここまで来れば確かめる必要のないことでも、儚い夢に終わってしまうのが怖くて無駄に念を押してしまう。
「……じゃなきゃこんなことできないでしょ。多分最初から好きだったんだと思う」
「でもさ……そんな素ぶり全然見せなかったよね?」
「好きの意味を知りたくなかったんだよ。那央が女だから」
確かに、私みたいな少数派でもなければ、何事もなく普通に過ごしていて同性に本気で恋することなんて稀だろう。
仮に本気で恋したとしても、その想いを自分で認められない気持ちも分かる。誰だって自分自身を無難な存在に留めておきたいものだ。真面目な希さんなら特にそうだろう。
「まぁ、それは納得」
それでもこうやって勇気を出してくれた希さんに最大限に応えたい。
希さんの頭をそっと引き寄せ、その髪を撫でながら優しくキスをした。もう好きな気持ちが溢れ出して止まらない。
「見ないフリしてたんだよ。本当はずっとこうして欲しかったくせにね。人に嘘付きたくないから自分に嘘付いてた。じゃなきゃ那央と暮らしてることも誰にも話せなくなるから」
「要するに、見栄?」
「……のようなものかな」
そして、希さんはまた「今までごめん」と謝り、甘えるような仕草で私の胸に顔を埋めてきた。そんなに謝られると逆に申し訳なくなってしまう。
でも、こんな希さんが愛しくて仕方がない。これ以上の幸せなんて世の中に存在するのだろうか。
もしあるとしても、私が現世で人生を終える程度の年月では絶対に体験できないだろう。そう思えるほど本気で幸せだ。
「お互いさ、もう嘘つくのやめよう。だって好きなんだもん。好きなものはしょうがないじゃん」
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