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「私が悪いんだ。私が最初から拒否してたら優衣をこんなに傷付けなくて済んだのに」
「……那央さんは悪くないよ。那央さんの気持ちに付け込んだのは私の方だから……自業自得だよ」
優衣は後ろから抱き付いたまま離れようとしない。こんなに私を想ってくれている人を突き放すのは本当に苦しい。
優衣の鼻をすする音だけが聞こえる。私は優衣の方から離れていくのをそのまま待った。
そして、数分後に優衣の腕がそっとほどかれた時、優衣の方を向き直ってその手をもう一度握り締めた。
「じゃあ、帰るね」
「イヤ」
「優衣……」
「イヤだけど……仕方ないよね」
まだ完全に諦めは付いていない顔だ。また胸が苦しくなる。
情に流されそうになるのを必死に抑え、溢れそうな涙を必死に堪え、温かい手をギュッと握って優衣の目をしっかりと見つめた。
「じゃあ、元気で」
それだけ言い残して優衣に背を向け、靴を履いて玄関を出た。優衣はそれ以上何も言って来なかった。
そして玄関のドアが閉まった瞬間、悲しみが込み上げて涙が溢れ出した。通路を歩いて来た人がびっくりして立ち止まったけどそんなことを気に掛ける余裕なんかない。今はとにかく別れが悲しいのだ。
私はそのまま泣きながら車を運転して帰った。そしてあんまり号泣したせいで家までの道を間違えてしまった。
「お帰り。遅くまでお疲れ様」
「……うん。帰り道間違った。ごめんもう寝る」
「大丈夫? なんか目が赤いけど……」
「いや、やっぱりツラいものはツラいよね……」
希さんはその言葉で全てを察してくれたらしく、何も言わずに私を抱き締めてくれた。これまでだったら頭を撫でてくれていたところだ。
「ツラい時は泣いて寝ればいいよ。那央だしね」
そして私は希さんの腕の中でもう一度号泣した。こんなに素直に甘えたのは初めてだ。希さんが背中を優しく叩いてくれても私の涙はしばらく止まらなかった。
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