覚悟を決める

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そして翌日、私は伊達メガネをかけて杉本農園その他へ向かった。昨日泣き過ぎたせいで人相が変わるほど目が腫れてしまったのだ。 伊達メガネの私の顔を見た希さんは「メガネ似合うね」と褒めてくれた。ちょっと賢そうに見えるからたまにはメガネもいいかも知れない。 今日は店に出勤じゃなくて助かった。私の視力がいいことをみんな知っているから、突っ込まれた時に言い訳のしようがないのだ。 私が泣いたと店で知れたら『やだ、あのふざけた三浦さんが泣くなんて!』とかいって大騒ぎだろう。悩みのなさそうな能天気な性格はこういう時に仇になる。私にだって泣いて過ごす夜くらいあるのだ。 もう、優衣のことは考えないことにした。1人の人間が幸せにできる人数には限りがある。私の場合は1人だけだ。 「あらあらあら。那央ちゃん今日は眼鏡なのね。とっても似合ってるわぁ」 千恵子さんは相変わらず開口一番私を褒めてくれる。ミートショップの経営を始めてからここを訪れる機会が増えた。そして最近、息子さんがハオルチアマニア化したようで、他の農園ではなかなか手に入らない品種を多く扱うようになった。 「お、三浦っち。これ持って行けや。おめェに個人的にやる」 「えっ、いいんですか?」 なかなか農園にいないレアな息子さん、(つよし)さんが私に珍しいハオルチアをプレゼントしてくれた。剛さんが自分で配合した新しい品種らしい。品種登録はまだということで、どんな名前がいいかと尋ねられた。 「うーん。私のセンスだと酷いことになりますよ?」 「例えばどんなだ?」 「えーと、とんがってて強そうだから『国士無双』とか」 「麻雀かよ。今度母ちゃんと3人で麻雀やるか?」 「あはは、それいいですね。ルール分かりませんけど」 「じゃあダメじゃねェか。その名前は却下だな」 そしてあっさり却下されてしまい、私命名の新品種の夢は一瞬にして崩れ去った。まぁそもそもそんなことをしにここに来た訳ではない。
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