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カワイイは冗談にしても、私は確かに店長のことが好きだ。もちろん恋愛的な意味ではなく人としての話。
顔は怖いし言動がオネエなせいで色々複雑な誤解をされがちだけど、実は男気がありながらも細やかな気遣いができる人柄だから、長い付き合いのある社員たちはみんな店長のことを慕っている。
そして、私の場合は特に店長に好意を持つ理由がある。
それは『男であって男じゃない』という特徴。私が店長に妙な親近感を覚えるのはこの特徴のせいだ。
「そういえば本間さん、ちょっと相談したいことがあるんです」
「ん? なに?」
「今までに仕入れたことのない品種を入れられないかと思って。ちょっと高価な品種を」
「具体的には?」
「えっと……。多肉植物なんですけど、ハオルチアを……」
ちょっと動機が不純なせいで歯切れの悪い受け答えになってしまった。
いや、私は店の売り上げに貢献しようとしているのだ。
ここは説得力のあるプレゼンで本間さんを丸め込まなければならない。
「なんで今ハオルチアなの?」
「まだ結構売れてるっぽいじゃないですか。わりと」
「そんな漠然とした理由で? ちゃんと市場調査したの?」
やっぱり本間さんは仕事には厳しい。
仕事以外だと優しいのに。
これは本気を出さないとやられる。
「えっと、ブームが落ち着いた今だからこそ希少種に価値を見出してる人も多いんじゃないかって考えたんです。普通に出回ってる品種はみんな持ってるから」
「……ふーん。なるほどね。で、希少種を仕入れて店でどう扱うの?」
「ショーケースに飾るとか。盗難が怖いんで」
「え、そんな高いの仕入れる気なの?」
何かを言えば言うだけ本間さんからツッコミが入る。愛あればこそと分かっていても結構ヘコむ。
何度もダメージを受け続け、もう私の体力はほぼゼロになっていた。
「一応店長にもちょっと話したら『やってみればいいじゃない』って言ってたんですよ……』
「いや、店長の感覚じゃダメ。あの人自身フィーリングで仕事してるから。フィーリングが許されるのはベテランになってからだからね」
「……はい。すみませんでした」
やはり強敵。まさかの惨敗だった。
やっぱり動機が不純だと勝てるものも勝てない。
でも本間さんは最後に「まぁ、行くだけ行ってみてもいいかもね。勉強してきな」と言ってくれた。いつも厳しいけどいつも最後は優しい。お言葉に甘えて早速アポを取ることにした。
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