頑張りすぎ

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それから1週間後。 電車を乗り継いで3時間ほどの小旅行の末、今日は道に迷うことなく目的の農園にたどり着いた。 1週間前に今日のアポ取りの電話をした時、近くに本間さんがいて具体的な品種名で問い合わせできなかった。あんまりピンポイントなことを言うと、勘のいい本間さんに私の下衆な計画がバレてしまうおそれがあるからだ。 仕方がないので一種の恋占い的な感覚で訪ねてみることにした。もし目的のものが置いてあったら私の未来は明るい。 とりあえず今日は天気がいい。きっといいことがあるはずだ。 「こんにちは。いつもお世話になっています」 「こちらこそお世話になってます。那央ちゃん今日もべっぴんさんねぇ」 「あはは。ありがとうございます」 「いつもありがとね。さあどうぞこちらへ」 「はい。失礼します」 今日訪ねた多肉植物農家『杉本(すぎもと)農園』さんは、ご主人が身体を悪くしてから奥さんの千恵子(ちえこ)さんが切り盛りしている。最近は30代の息子さんも手伝っているようだ。 いつもここに来ると、取引先というより遠方に住んでいる親戚の家を訪ねているような感覚になる。 「ハオルチアだったわよね?」 「はい。ちょっと見せてください」 「御眼鏡に適うものがあるといいんだけど」 広いハウスに入って案内された場所には沢山のハオルチアが並んでいた。これまでには置かれていなかった品種がちらほら目に入る。 もしかしたら、と期待したものの、藤沢さんが欲しがっている玉扇錦は見当たらなかった。 「千恵子さん、玉扇錦は育ててないですか?」 「えっと、ごめんなさいね。ハオルチアは詳しくないからよく分からないの。息子が管理しててね。最近新しい品種を育ててるみたいなんだけど」 ここで『これから育てられませんか?』と交渉してみようかと考えた。だけどこれからとなると入手できるのがいつになるか分からない。 一応、仕事柄いろんな場所に行くから、出向いた先で生花店や農園を巡って探そうかとも考えた。でも、マニア寄りの人は自分の目で見て納得してからじゃないとイヤなはずだ。私が勝手に買っていいものではない。 まぁ、焦る必要はない。 来月の多肉植物展示会で販売されているかも知れないし、そのうち他に何か入手方法を思い付くかも知れない。 今回はとりあえずちょっと高い品種を2個だけ仕入れることにした。あんまり大量に買ったら本間さんに怒られてしまう。 この後、もう一件仕事をこなして宿泊予定のビジネスホテルへ向かう。ホテルに到着したら藤沢さんにメールを送ってみるつもりだ。どんなメールを送ろうかと考えていたらドキドキしてきた。
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