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これまで私は必死になって藤沢さんの気を引こうとしていた。だけど気を引いたところで最終的にどうなるというのだろうか。
現実を無視して今の本音を言えば藤沢さんと付き合ってみたい。まだ知り合って日が浅いとはいえ、この胸のときめきは紛れもなく本物だ。
それでもやっぱり性別の壁は厚い。私がどんなに頑張っても壁を乗り越えるのは不可能に近い。あの遊び人の優衣でさえ、あれだけ『那央さんって超イケメンですよね!』と言いながら、女だからという理由だけで私の存在を歯牙にもかけなかった。
「でも意外。こんな人を周りが放っておくなんて」
「いえ、誰からも相手にされません。中身が微妙にヘンなので」
「逆に魅力だと思いますよ。私は今の三浦さんの方が好きです」
『好きです』の一言で私の憂鬱は一瞬にして吹き飛んだ。
これはもっと好かれなければ。
今の私の方が好きということは、無理して自分を着飾る必要はないということだ。
ということは、私がいま実は道を間違えたという事実を伝えても笑って許してもらえるということだ。
「……あの、道間違ったみたいです」
「え? あ、大丈夫ですよ。急がないですしね」
「すみません。実は方向音痴で……」
「ふふ、意外。三浦さんって実は可愛いんですね」
私を『可愛い』と言ってクスクス笑い始めた藤沢さんに更にときめいてしまった。カーナビを使って道に迷うと大抵の人は呆れるのに、藤沢さんは許すどころか可愛いとまで言ってくれた。
きっと大丈夫。道はどこかで繋がっている。勢いで突き進めばいつかは目的地にたどり着くはずだ。
……多分。
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