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「三浦さん」
「はい?」
「気を付けてね」
「え?」
「あなたちょっと目立つから、研修先でヘンな人に目を付けられないように。またストーカーみたいなのが来たら手に負えないわ」
「……あ、はは。はい。その節はすみませんでした」
「まぁ、また何かあったら私がヒネるけどさ。じゃ、来月よろしくね。泊りがけで2日間だから」
私が今ここでバイヤーとして働いているのはこれが主な理由。元々は店舗の販売員として雇われた身だったのに、ちょっと危ないお客様からの謂れのない苦情(好意をあしらわれた腹いせ)によって裏方に回ることになった。
異動の話が出た時、最初は自分に交渉事なんか務まるのかと不安だったけど、チーフバイヤーのアシスタントとして同行しながら修行して、最近ようやく独り立ちできた。
とは言っても、今のところ私が担当しているのは、店と契約している花卉農家との形式的なやり取り程度。大きな商談や新たな契約先の開拓はベテランの仕事だ。
私は元々一匹狼気質で一人旅には慣れているし、一応英語も喋れるから海外出張の時は重宝される。この仕事に就いてから、実はこちらの方が天職だったことに気付いた。
「三浦さん、おはよう」
「おはようございます」
「水やりありがとう。今日は天気いいわねぇ」
「ですね。久しぶりに太陽見ました」
水やりを粗方終えた頃、先輩たちが続々と出勤してきた。みんな人柄が良く、若手社員の私を可愛がってくれるから仕事がやり易い。
ホースを巻き取って事務所へ向かおうとした時、チーフバイヤーの本間さんがこちらへ向かって来た。
本間さんは私の上司に当たる40代女性。歳を感じさせない若々しい人。私の師匠であり、目標にしている人でもある。
「おはようございます」
「おはよう。今日は店にいるの?」
「はい。この先はしばらく出ない予定です」
「じゃあ後で作って欲しい書類があるんだけど、時間大丈夫?」
「大丈夫です。……あ、一つだけ仕事片付けてからでもいいですか?」
「助かる。急がないからいつでもいいよ」
この店では店頭での販売の他にネット販売もやっていて、裏方仕事には事欠かない。出張の予定がない時はパソコンに向かって事務仕事をしたり、受注したフラワーギフトのアレンジメントを手伝ったりしている。
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