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それから、変わらない日々を過ごすこと1ヶ月。
店長から参加を指示されたセミナーへ出向くため、普段は着ないスーツをピシッと身に着け、いつもより少し気合いを入れて化粧した。
店長からは「気を付けて」と釘を刺されたものの、何をどう気を付けていいやらサッパリ分からない。TPOをわきまえようとすると、背が高いのも災いして勝手に目立ってしまうし、かと言って汚い格好をする訳にもいかないし。
ドレッサーの前でため息をつき、これまでの苦い経験を思い出す。恵まれた容姿ゆえの悩みは他人には話しづらい。よほど親しい相手じゃない限り迂闊に話せない。
その点、男性なのに女性的な中川店長との出会いは私にとってホントに幸運だった。以前、私が販売員をしていてストーカー被害に遭った時、他の女性社員には話しづらくて店長に相談した。
すると店長は、強面の容姿を最大限に活かしてストーカーを追い払ってくれた。あの時の男らしい低い声と、その直後のオネエへの豹変が今でも忘れられない。
さすがにプライベートに突っ込むのは失礼だから店長の私生活については全然知らないけど、なんとなく自分に通じるものがある気がして一方的に心の距離を縮めている。
腕時計を確認して長い髪を1つに縛り、電車の時間に間に合うように早めに家を出た。
そういえば、高校時代は外見を男に寄せたくて髪を短くしていた。自分は性同一性障害なんじゃないかと疑ったこともある。実際、当時密かに想いを寄せていた相手は女性だった。
所属していたバレーボール部の1年後輩、遠山優衣。
最初は彼女の清楚な見た目に惹かれた。自分の見た目を男に寄せようとしたのは彼女の気を引きたかったからだ。
優衣は私を『那央さん』と呼んで懐いてくれた。私も優衣を特別に可愛がった。
だけど優衣には彼氏がいた。仲良くなるごとに彼氏の話題が増え、そのうち露骨な下ネタを言うようになり、最終的には「誰にも言わないでくださいね」と、二股をかけている事実まで聞かされてしまった。
清楚な見た目に反してかなりの遊び人。人は見た目では判断できないものだとこの時学んだ。そして、これ以上傷付きたくないという本能からか、優衣に対する私の恋心は少しずつ薄れていった。
お互いに高校を卒業した後、一度だけバレーボール部のOG会で顔を合わせた。この時私には同じ専門学校で出会った彼氏がいた。優衣の方は大学に進学して相変わらず遊び呆けていたらしい。あれから2年が経った今はどちらとも疎遠になっている。
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