運命のセミナー

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廊下で受付を終え、ドアを開いて会場を見渡した直後、場違いな空気に圧倒されて息が止まってしまった。4、50人はいそうな参加者のほとんどは30代以上の男性で、私と違って本物の管理職っぽい人ばかりだった。 中にはちらほら女性もいるけど、どの人も結構年配の人で、やっぱりみんな本物の管理職っぽい。 私は遠慮がちに中に入り、ドアの横で硬直しながら必死に偽物っぽい人を探した。こんな中に1人だけ小娘が混じっていたら追い出されるかも知れない。チラチラ視線を感じるのが更に気まずい。 その時、後ろから「おはようございます」と声がして、1人の女性が私の横を通り過ぎた。私が咄嗟に「おはようございます」と返すと、女性は会釈して会場内に溶け込んで行った。 若い。 多分私より年上だけど明らかに若い。 そして美人。 清楚な雰囲気を見て優衣を思い浮かべた。 一瞬だけ『この人私と同じ偽物かも』と期待した。でも堂々としたあの態度を見る限り、実は本物の管理職なのかも知れない。 講習の開始時刻が迫り、講師が会場に入って来たのを見て私は諦めた。これはもう本物のフリを通すしかない。 でも、この講習のあと交流会が予定されている上、更に講習は明日の夕方まで続く。本物を演じ切るのはかなり大変そうだ。 私は管理職っぽさをイメージして、わざとツンとした態度で空いている席に座った。
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