暗い私

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暗い。 私が暗い。 自分でも驚くほどなんだから店長と本間さんが突っ込んでくるのも当然だ。 でもやっぱりあの出来事のせいで無駄に色んなことを考えてしまう。 「……那央、何か心配事でもあるの?」 「いや、大丈夫。そういうお年頃なんだと思う」 考えるのが苦手なクセに色々考えてしまうから、何を言葉にしていいやら全然分からなくて馬鹿みたいな言葉を返してしまう。 「那央」 「ん?」 「出て行くつもりないから。心配しないで」 「……え?」 「那央の方から離れて行かない限りね。那央に嫌われたら仕方ないから出て行くよ」 希さんの言葉に急に感情が込み上げ、涙が溢れ出しそうになった。でもこんなところで泣いてはいけない。急に私に泣かれたら希さんだって訳が分からないだろう。 じっと涙を堪える私の姿が希さんの目にどう映ったのかは分からないけど、希さんの手が私の頭をいつもみたいに撫でてくれた。そして今回はなんと、身体まで優しく抱きしめてくれた。 「何があったのか分かんないけどさ、辛いことがあったら話してね。那央が暗いと私も暗くなっちゃうよ」 こんな自分がホントに情けない。こんなんじゃ胸を張ってプロポーズなんて到底できやしない。最初は何も考えずに馬鹿みたいに頑張ってたはずなのに。 「ごめん。明日から暗くならないように頑張る」 「いや、無理して頑張って欲しくないって」 「……うん。でも大丈夫だから。別に何もないよ」 「だったらいいけどさ。でも珍しいよね。那央がこんな不安定になるのって」 希さんが気付いていないだけで実は最近わりと不安定だった。優衣とのことがあってそれが一時的に爆発してしまい、今回ついに異変に気付かれてしまったのだ。 でも多分、少し時間が経てばそれも落ち着くはず。イヤなことをすぐに忘れる脳みそはこういう時に便利だ。 「まぁ、寝たら治るよ。最近仕事が忙しくて疲れてたんだと思う」 「確かに、疲れてると気が滅入るからね。今日はもうゆっくり休んで。明日もお弁当作るからさ」 お弁当は嬉しいけど、希さんの身体が離れていくのは少し寂しい。柔らかい身体をもう少し感じていたかった。こんな時にまで希さんの胸の大きさを気にしてしまう私はやっぱり最低だ。
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