暗い私

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こうサッパリ割り切れる優衣を少し羨ましいと思った。私もここまでとはいかなくても少し気持ちを楽にした方が良さそうだ。 「まぁ、また機会があったらご飯でも食べに行こう。えーっとなんだっけ、その契約がどうこうは別として」 『とりあえずそれでもいいですけど。……あ、そうだ。今度那央さんの家に行ってもいいですか?』 「あぁいや、だから言ったじゃん。このへん霊的にかなりアレなんだって。実はこの前も見たし」 『……嘘が下手ですよね。相変わらず』 「えっ?」 『まぁいいですけど。じゃあ来月のシフト出たら教えますね』 会ってしまえばそういう展開になるのは分かり切っているのに、私はまた優衣の誘いに曖昧な答えを返してしまった。受け入れるなら受け入れる、断るなら断る。そうはっきり答えを出せないのが私の一番ダメなところだ。 そしてその後、私はまた優衣の部屋で優衣を抱いた。それが幸せかと聞かれたら正直答えに迷う。あくまで『幸せを手放さないため』であって、幸せそのものを得るための行為ではないからだ。 希さんを心に留めたまま違う人と身体を重ねるなんて、少し前の自分だったら絶対に考えられないことだった。 「あれ? 明日からの出張3日間だっけ?」 「あぁ、急に予定が変更になってさ。次の日休みだから一緒に出掛けよう。希さんも休みだよね?」 「うん。じゃあ映画館行こっか。さっき那央が言ってた映画おもしろそうだし」 「あ、いいね。楽しみだなぁ」 「あとさ、これ」 「……ん? お守り?」 「このまえ実家に帰った時お母さんと神社に行ったの。無事に帰って来てね」 だけど希さんへの気持ちだけは変わらない。他の人に気持ちが移るなんて考えられない。 希さんがくれた交通安全のお守りを握りしめてベッドに入り、まだちょっと心の中に残っている罪悪感と一緒に眠りに就く。しばらくの間そんな日々が続いた。 その後は、希さんとのことで感傷的になった時にだけ優衣の誘いに応じるようになり、その度に一時的な快楽を得て自分の心を慰めた。 「男と違って後腐れなくて都合がいい」と言ってくれる優衣との契約は、今の私には無くてはならないものだ。これがなければ希さんとの関係をすぐに壊してしまっていたに違いない。 無期限の契約期間はあっという間に過ぎて行く。 そうやって2人の人を交互に行き来しているうちに、2人の様子が少しずつ変化してきたことに気付き始めた。
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