運命のセミナー

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その後のグループディスカッションでは『若手社員の定着と育成』というテーマで意見を出し合った。 私はそんなことより隣に座っている藤沢(ふじさわ)(のぞみ)さんのことが気になって仕方がなかった。 グループ内の最初の自己紹介で、藤沢さんがブライダル企業に勤めていることと、営業企画部で係長として働いていることを知り、若そうなのに管理職だった事実に少しショックを受けた。 ショックを受けつつ、私は目の前の課題もそこそこに頭の中でこの後のことを考えていた。ブライダル企業ということは花を扱う機会が多いはず。ということは、私が自分の仕事の話をすれば興味を持ってくれるに違いない。 藤沢さんはこの後の交流会に参加するのだろうか。そればかりが気になって腕時計をチラチラ見てしまう。 ようやく講習終了の17時を迎え、今日のところは解散となった。この後18時から同じビルの和食料理店で交流会がある。私はすかさず藤沢さんに声を掛けた。 「あの……」 その時藤沢さんはスマホを耳に当てて電話をし始めたところだった。そのまま席を立ち去ってしまい、私はその場にポツンと取り残された。 ここでハッと我に返る。 店長の「気を付けて」の言葉をここでまた思い出した。 交流会、すなわち飲み会だ。アルコールの入った男性は気が大きくなって女性に絡みたがる。自分で言うのもナンだけど、これまでの飲み会で男性から絡まれなかった試しがない。 店の飲み会なら自分から店長に絡みに行って逃れることができるけど、1人も味方のいない今の状況ではさすがに逃れようがない。 あれこれ考えた結果、もし藤沢さんが交流会にいなかったらさっさとホテルに退散する、ということにした。 その時、席に座ったままの私に1人の男性が声を掛けてきた。 参加者の中では比較的若そうなその男性は、「お疲れ様です」と言って私に名刺を差し出した。 とりあえず失礼のないように席を立ち、私もバッグから名刺入れを取り出す。
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