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不安とやる気で悶々としながら我が家に帰ると、今日休みだった希さんがリビングで洗濯物をたたみながらテレビを観ていた。テーブルの上には豪華な料理が用意されている。
「あ、お帰り」
「ただいま。いい匂いするなぁ。なに作ってくれたの?」
「今日は肉じゃが。このまえ食べたいって言ってたからね」
これはもう愛する妻の帰りを待つ健気な妻の姿だ。同居開始から丸2年が経ってもお互いの愛情が色褪せることはない。
「今度希さんとピクニック行きたいなぁ。一緒にお弁当作ってさ」
「あ、それいいかも。最近涼しくなって来たしね」
「じゃあ次の休み晴れたら行こう。雨女の呪いどうにかしないと」
「大丈夫だよ。私の晴れ女の呪いの方が強いから」
希さんが作ってくれた絶品肉じゃがを頂きながら、今日の店での出来事を希さんに伝えた。すると思った通り希さんは「すごいね! 頑張って」と喜んで私の挑戦を応援してくれた。やっぱり愛すべき妻だ。これは頑張らなくてはならない。
「あ、じゃあ今より忙しくなる?」
「ちょっと残業増えるかもね。出張も」
「……そっか」
その時、希さんの表情が一瞬だけ暗くなった気がした。一瞬だけだから気のせいかも知れないけどいつもと違う空気が少し気になる。
「え、どうしたの? もしかして寂しい?」
「いや、最近出張増えてたみたいだからさ。今より大変になったら那央の身体が心配で」
「大丈夫だよ。まだ若いから」
「……ちょっと那央、私の前でそれ言っちゃダメでしょ?」
「えっ! なに言ってんの希さんだってまだ若いじゃん」
「あはは、冗談だよ。でも若くはないね。32は」
「私は年齢は気にしない」
「いや、那央が気にしなくてもさ」
笑いながら話してはいても、やっぱり表情が少し暗いように見える。もしかしたら自分の年齢のことを本気で気にしていたのだろうか。だとしたらちょっと無神経だった。
「希さん」
「ん?」
「……いや、何でもない」
どうにかフォローしようと思ったけどいい言葉が出てこなかった。こういうことは言えば言うだけ墓穴を掘ってしまう。だったらむしろ何も言わない方がマシだ。
「那央、やっぱり変だよね」
「……ん? なにが?」
「なんていうか……。いや、変なのは私か。ごめん、疲れてるのかも」
「えっ、ごめん肉じゃが作らせて。疲れてたら休んでていいのに」
「那央に喜んで欲しかったからさ。でも今日は早く休むね」
「うん、いつもありがとう。あとは全部やっとくよ」
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