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「三浦さん、なかなか順調じゃない。これなら心配なさそうね」
「ありがとうございます。好き勝手やらせてもらってすみません」
「いいのよ。もし失敗したら自腹切ってもらうつもりだったから」
閉店後の事務所で店長がこんな恐ろしいことを言い出した。
今まで知らなかった。この店はブラック企業だったのか。私はそれに気付かずに7年近くも勤めていたのか。そしてこの先もし売り上げが低迷したらマンションを売り払って希さんとの同居生活も解消しなければならないのか。
「……やぁね。そんな顔しないで。冗談よ」
そんな心配をよそに、私のミートショップは順調に売り上げを伸ばしていった。
ある時、若い女性のお客様から「撮影してもいいですか?」と質問があった。店内は基本的に撮影禁止だ。でも、おそらくSNSに投稿するのだろうと踏んで、更なる売り上げアップのために店長と本間さんの許可を得るべく店内を奔走した。そしてミートショップのみ特例ということでなんとか許可が下りた。
こうして私はとにかく頑張った。希さんに認めてもらいたい一心で。来たるべきプロポーズの時に備えて可能な限り自分をハイスペックにしておきたい。とにかくそれだけが私の原動力だった。
そしてそんな忙しい時間を過ごしていたある日の夜、優衣から1ヶ月ぶりのメールが届いた。
『今電話して大丈夫?』
この数ヶ月間は忙しくて電話すらも断り続けていて、心の片隅でずっと気にしながらもなかなか優衣との時間を取ろうという気になれなかった。
少し落ち着いた今なら対応できる。風呂上がりの身体をベッドに横たえたあと、すぐに優衣に返信した。
「優衣、久しぶり」
『うん』
「元気だった?」
『どうかな』
「ん? 何かあった?」
『那央さんが相手してくれないから寂しくて』
またいつもの軽口だろう。そう思って同じように軽口を返した。
「誰か相手探せばいいじゃん。優衣ならすぐ見付かるでしょ?」
しかし、優衣からの言葉はなかなか返って来ない。電話口から重い空気を感じる。何事かと思ってベッドから身体を起こし、優衣にもう一度問い掛けた。
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