小さなミートショップ

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「まさか本気で寂しい……とか?」 『そりゃそうだよ。電話もしてくれないし』 「ごめん。ホントに忙しくて」 『次はいつ会えるの?』 いつもより少し口調が荒い気がする。そして押し付けるような強引な言い方。これまでの優衣とは明らかに違う。 「まだ分かんない。仕事の状況によるからね。っていうか、恋人同士って訳じゃないんだから無理に会わなくても……」 『似たようなもんだよ。会えばセックスする仲でしょ?』 「い、いや。あくまで身体の関係だけじゃん。気持ちはないんだから恋人同士とは……」 『やっぱり違うかな?』 「違うよ」 『じゃあ違うんだろうね。分かった』 「え……?」 今日の優衣はどうも様子がおかしい。普段すっとぼけている私ですらはっきりとした違和感を感じる。 少しまずいことになっている予感がした。優衣は多分、私に本気になりかけている。 『でもなぁ。私そろそろヤバいかも。那央さんが会ってくれないと手当たり次第に逆ナンしそう』 「え、それはやめて。優衣が犯罪に巻き込まれたら困る」 『困る? なんで? ヤれなくなるから?』 「……優衣」 『なに?』 「もう……分かったよ。後で休み教えて。調整するから」 超ワガママな彼女に翻弄される気弱な彼氏みたいな気分だ。気弱だから冷たく突き放すこともできなくて折れてしまう。 仮に優衣が本気だとしても、私は優衣の気持ちには応えられない。だったらむしろ冷酷になることの方が優しさなのだろうか。 冷酷になり切ってここで優衣との接点をバッサリ切ってしまうべきか。でも弱い自分にそこまでの勇気はない。 もしくは、優衣の前で『契約』を掲げればこれまで通りの都合のいい関係は続けられる。だけど私にそんなズルいことはできない。 とにかく、まだ決定的なことを言われた訳ではない。今からどうこう考えても無駄だ。ここに来て悩みの種が増えてしまった。
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