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「……やっぱり私には希さんしかいないな」
「ふふ。また急にそんなこと言うよね」
「こんな情けない女でごめん。頑張っても全然希さんの役に立てない。空回りしてばっかりでさ」
すると希さんはやっぱり私の頭を優しく撫でてくれた。この人は私の頭を撫でるのが好きらしい。何も聞いてこないところを見ると、私が何のことを言っているのか分かっているのだろう。
「那央さ、私の昇進のこと気にしてるでしょ?」
「……情けないよね、ホント」
「全然。私を支えたいと思ってくれてるんだよね?」
「……うん」
「私はね、人のために一生懸命になれる那央が好きなの。そんな人にこんなに想われてることが本当に嬉しいんだよ」
優しい言葉に涙腺が緩んだ。
希さんは私の純粋な気持ちを真っ直ぐ受け止めてくれる。どんなに私が空回りして情けなくても絶対笑ったりしない。
「だからさ、無理して頑張らないで。そばにいてくれるだけで嬉しいからさ」
「まぁ……うん。希さんがそこまで言ってくれるなら」
「ふふ。元気出た?」
「出た。明日から頑張る」
「だから頑張らないでってば」
するといきなりデコピンが飛んできた。
「いてっ!!」
「あっ、ごめん! ちょっと強くしすぎた!」
タオル越しなのに結構痛かった。じゃれ合いのつもりで力加減を間違えたらしい。でも愛のデコピンだから許す。
「あ、そうだ。来週会社の人と飲んでくるね。後輩の女の子が私と飲みたいって言うからさ」
「うん。行ってらっしゃい」
「その日出張だっけ?」
「うん。その日に帰って来るよ。たぶん希さんより早いと思う」
希さんは律儀な人だ。私の予定には全然干渉して来ないのに、自分のことについては『誰とどこでどんなことをする』と結構細かく教えてくれる。たぶん私に心配を掛けないようにそうしてくれているのだろう。
ことごとく気遣いのできる優しい人だ。希さんには幸せになって欲しい。でも私以外の人に幸せにされるのはイヤだ。だからやっぱり私が幸せにするしかない。
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