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『メールで納得してもらえるなら』
そして結局、このメールを最後に優衣とのやり取りは途絶えてしまった。こうなったら強硬手段に出るしかないのか。もしくはこのままフェードアウトするという手もある。
いや、フェードアウトはどう考えてもズルいし、忘れた頃にいきなり連絡が来てモヤモヤしてしまうかも知れない。
だったら強硬手段だ。直接優衣の部屋に押し掛けて納得してくれるまで話す。もし現金を請求されたら札束を叩き付ける覚悟だ。
「那央、気を付けてね。行ってらっしゃい」
「行ってきます。あ、明後日の夜だったよね? 会社の人と飲みに行くのって」
「うん。遅くなるかも知れないから先に寝てて」
「分かった。じゃあ行ってきます」
今日、明日、明後日と3日間かけて遠方へ出向く。明後日は早く帰れるから、家に帰る前に優衣の所へ行くつもりだ。前に教えてもらったシフトではその日は休みのはず。もし家にいなければ改めて別の日に行くしかない。
今までは、こんなふうに一つのことばかり考えていたら大体道に迷っていた。でも最近はそういうことが全くない。気付いたら方向音痴を克服できていた。今回も一切道に迷わずに仕事を全う出来た。
自覚がなかっただけで私も案外成長しているのだということに気付き、こんな小さなことでも嬉しいものだと心が軽くなった。
3日目の仕事を終え、ローカル電車に揺られながら心臓をドキドキさせた。これから優衣の部屋に行く。もしかしたら不在か、実はいるのに居留守を使われるか、最悪警察を呼ばれてストーカー扱いされるか。どうもこういう時は悪い方にばかり考えてしまう。
そして私の予感通りやっぱり優衣は不在だった。元々優衣は家でのんびり過ごすタイプではない。いつも誰かと繋がっていたいタイプだ。これはもう、日を改めて夜遅くに訪ねるしかないだろう。
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