そしてついに

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自宅に近付くにつれて疲労感が増して来た。優衣の不在で緊張が解けたせいだ。あれから何度かメールを送ったけどやっぱり返信はない。あんまりやると自分がストーカーみたいで気が咎めるからもう送らないことにした。 それにしても、優衣は案外本気らしい。あれだけ男を取っ替え引っ替えしていたのが嘘みたいだ。私なんかに執着しなくてもいくらでも相手は見付かるはずなのに。 あんまりスッキリしない気分のままマンションのエレベーターに乗り、帰宅したのは19時過ぎだった。希さんはまだ帰っていない。酒を飲むならまだしばらく帰って来ないだろう。 部屋が蒸し暑いからエアコンの電源を入れ、リビングのソファーに座ってお土産のお菓子をテーブルに置いた。広いリビングが静かで寂しい。そう思ってテレビを点けてみると、希さんと2人でよく観るクイズ番組をやっていた。 私はいつもほとんど正解を答えられない。得意なのは英語問題と植物問題だけだ。そして希さんの正解率はジャンルを問わず8割を超える。やっぱり管理職になるにはそれだけの知識が必要なのだろう。 私も心意気だけは負けないようにとテレビを観ながら「かきのもと!」と叫んだ。正解だったけど1人だとやっぱり虚しい。 どうやらスペシャル番組だったようでなかなかクイズ番組は終わらない。私の虚しいシャウトはいつまで続くのだろうか。 その時ふと自分が空腹だったことに気付いた。優衣のことに集中していて夕食を取るのを忘れていたのだ。でも今から作るのはめんどくさい。希さんのためならともかく自分だけならテキトウに済ませてしまってもいいだろう。 そして私はテーブルの上のお菓子に手を出した。こんなことを知られたらまた希さんに怒られてしまう。
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