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大森は予想以上におしゃべりだった。鍵山にだけかと思っていたら、そうでもないらしい。
思いついたことをすべて口に出し、私が返答してもしなくても喋り続けていた。
それが落ち着いたら鼻歌を歌って、また思いついたことをまくしたてる。
言いたいことに口が追い付いていないのか、あのね、それでね、と言いながら話し続ける大森はまるで子供のようだった。
児童書コーナーに着いて、大森にせがまれて本を選んだ。
小学校くらいの児童向けの本は私も好きで、高校生になった今でも読み返したりすることがある。
なので、子供のような大森はことさら気に入るだろう、と思った。
「あ、これ昔好きだった」
「へー。面白そう!しのちゃんは本が大好きだね」
「う、うん」
「あたしあんまり本とか読まないからさー」
「確かに、いつも図書室にいるけど携帯いじってるだけだよね」
「そう。だって千春ちゃんと一緒にいたいだけだからね!」
大森は無邪気に笑った。
くそ可愛い。
いつも一緒にいる鍵山の、この子を大事にしたいと思う気持ちがよくわかった。
「しのちゃんは進路どうするの?」
「うーん…今んとこやりたいことないし適当に大学行こうかなと思ってるけど」
「そーなんだー。あたしはね、高校卒業したら就職して、千春ちゃんと一緒に住んで、それでね、千春ちゃんがお勉強するお手伝いをしたいんだ」
その言葉で、大森は人生の軸に鍵山を置いているのだと確信した。
彼女にとって鍵山の言うことが疑いようもない正義で、鍵山さえいれば他に何もいらないのだろう。
確かに、鍵山には人をそのぐらいにまでさせるような一本の強い芯を持っているような気がする。
「そういえば、しのちゃんに謝らなくちゃいけないことがあるんだ」
「何?」
「千春ちゃんがね、しのちゃんに笑いかけてた時あったでしょ。あの時、千春ちゃんが遠くなった気がして、泣いちゃったの」
そんなことを私に謝ろうと考えていたとは、なかなか独特の価値観を持っているなと思った。
しかも、あれは私に笑いかけたわけではなく嘲笑だったと思うのだが、大森にとっては笑顔に変わりないのだろう。
…それにしても、それって嫉妬ってやつじゃないか?と思ったが、言わなかった。
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