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図書館を出る頃には日が落ちかけていた。
シノ君とひなたちゃんは2人して児童書を1、2冊借りていた。
千春ちゃんとひなたちゃんはわたしの送迎を辞退した。2人の時間を作りたかったのかな、などと想像した。
今日4人で会ってみて、わたしはシノ君が千春ちゃんとひなたちゃんに向ける視線を見逃さなかった。
どこか羨ましそうにしていて、それが千春ちゃんに対してなのかひなたちゃんに対してなのかまではわからなかった。
頭の中が正体のわからない焦りや、不安でかき乱されていた。
恋は時に人から理性を奪う。つい数時間前に、千春ちゃんに偉そうにアドバイスをしていた人間の思考回路とは思えない。
車にエンジンをかけて、シノ君と2人でしばらく沈黙を受け止めていた。あの時みたいに。
「…シノ君さ。わたしのこと、どう思ってる?」
困らせるとわかっていながら半ば衝動的に問いを投げた。
「…歌子は、歌子だよ」
シノ君は困っている。
「映画観た日の帰り、どうして拒絶したの」
「あれは、嫌だったんじゃなくて」
シノ君が困っている。
「嫌だったんじゃなかったら、何?」
シノ君は言葉に詰まっている。わたしは好きな人を困らせている。
「もしかして、千春ちゃんのこと好きなんじゃないかな」
「それは…違うよ」
シノ君は困っている。さっきから目線が合わない。
「目を見て」
「…自分でもわからないんだって」
シノ君が困っている。目線は合わないままだ。
"好きだってこと全力で伝えろ"。
めんどくさがりなあいつが提示してくれたアドバイスを、遂行しなければと、ハンドルに手をかけ頭を垂れて、息を吐いてひり出すように言った。
「…わたしは、シノ君のこと好きだよ」
沈黙。
わたしは好きな人を困らせてしまっている。
大好きな人が目の前にいるのに、どうしてこんなにうまくいかないのだろう。
もう自信と勇気が尽きてしまった。
好きでいることが辛くなってしまった。
隣にいてくれることが辛くなってしまった。
「…やめよっか」
「…え」
「いったん、距離おこう」
シノ君の顔を見れない。
もう、シノ君が何を思っているのかを知ろうとすることが怖くなってしまった。
無言でシートベルトをしめてハンドルを握った。シノ君もずっと無言だった。
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